ブックレビュー『きみの血を』

在日米軍基地で問題を起こし、
アメリカに強制送還された23歳の兵士ジョージ・スミス(仮名)。
陸軍病院の独房で精神鑑定を受けることになった彼は
何故、手紙を検閲し、質問を投げかけたマンソン少佐を殴ったのか、
また、その際に自ら握り潰したグラスで負傷した手から滴る血を舐めたのか……

というミステリ。
ジョージ・スミス(仮名)に問診する若い精神科医アウターブリッジ軍曹の奮闘が、
上官であり親友でもあるウィリアムズ大佐との、
皮肉と友情に満ちた往復書簡によって浮かび上がり、
成育歴を知るべく、ジョージに綴らせた回想記が開陳される、
いわゆる「雑多なテクスト」構成の小説。

ジョージがどういうタイプの吸血鬼か、そして、いかにしてそうなったのかを暴く
探偵小説風の作品なのだが、探偵役を精神科医が務める点が、
精神分析学や性科学が人口に膾炙した発表当時(1961年)、
多くの読者を惹きつけたのだろうか――

と考えつつ、実は再々読くらいの段階で、
これはもしやブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』へのオマージュではないのか、
とも思っていた。
本作も『吸血鬼ドラキュラ』同様、様々な文書がズラズラーッと並べられているのだが、
大きな違いは、そうしたテクスト群を整理して読者に差し出す「誰か」が存在する、
という点。
これがオープニングとエンディングで不気味な囁きを発する「信頼できない語り手」で、
しかも、それが催眠術師のような口調で語っているところが、何とも不気味なのだった。

つくづく地味で、華やかさのかけらもないけれど、
妙に味わい深くクセになる、不思議な物語。
きっとこれからも何度となく読み返すだろう。
私は貴族的な風貌のイケメン吸血鬼が
恋愛に奥手でシャイな女の子を見初めて云々……といったタイプの話より、
こういう普通の人間の暗黒面に光を当てるような小説が好きだから。