恋とも愛とも呼べぬならー告白ー

ー告白ー
私は不出来な女で、どんなところが不出来なのかというと人間関係がうまく築けないということである。自分の気分の波で周りを振り回してしまう。また恋人がいるなら控えた方がいい行動も平気でとる。恋人によって私の行動が制限されるというのは恐ろしい、
 予測不能なこの気分の波は私という人間が不出来だから、としか言いようがない。
 その男と出会う前に恋人がいた。少し歳上の、行きつけのバーのバーテンダーだ。足繁く通い、好意の札を少しずつ交換し1ヶ月ほどで付き合うことになった。
 とても優しくいい人でバーで飲んで店を閉めて2人で私の家に帰るというデートが最高に楽しかった。
 しかし長く一緒にいるうちに食事の用意や私より長い髪の毛のゴミを見るたびに恋心よりも2人でいるための労力が負担に感じるようになってきた。
 恋人に借金があること、バツイチであること、それを普通じゃないと思い始めた。普通というのは何か、という話をしたらもう少し踏み込んで長々と文字を連ねる必要があるのでここでは書かないが、30歳という年齢もあり結婚を考えたときに家族や身内に堂々と紹介できる人ではないと思ってしまった。
 恋心が少しずつ冷めてきた頃に飲み会に行きその男と出会ってしまった。そして不出来な女が出した答えは「恋人と別れる」ことだった。この答えは簡単に出した訳ではない。申し訳ない気持ちやどうすることもできない後ろめたさがあったのだ。
 
 少しずつ不機嫌な様子が伺える私を恋人はわかっていた。別れ話はあっさりと済んだ。こんな呆気ないものかと私も驚いたし、1人の男をきちんと愛し続けられないという経験は永遠の愛を誓うことへの不安を生んだ。結婚への憧れはあるが、半同棲のような生活でかなり疲弊してしまった私は結婚というものが向いてない気がしてきた。愛されたいけども愛し続ける自信は30歳にしてすっかりなくなってしまった。
 
 それでも恋人と別れて新しい気持ちでその男に会えるのは喜ばしいことだった。初対面のときに彼氏がいることは伝えていたので3度目に会うときに「恋人と別れた、好きだ」と告白しようと考えていた。
 夏の新宿。ノースリーブの紺のワンピースを着ていく。7月のまだ暑くなりきっていない湿気った夜風を浴びてまた鶏肉を食べに行く。
 その男は鳥取からの出張帰りで緑色のリュックを背負っていた。変わった男だなと思いつつ、そのリュックから鳥取土産のお菓子をもらったとき本当にうれしかったし、無骨なその男にお土産を買うという脳があったことに驚いた。
 ありがとうと大喜びでお菓子を頂く。しばらくパッケージを眺めてその男がどんな気持ちでこのお菓子を買ったのか想像してみる。その男の頭の片隅に少しでも入り込めたようで、好意の手札を1つ交換した気分だった。
 その店でまた鶏肉を食べ、夜も更けたことだし帰ろうという話になった。このまま帰せない。私には言わなくてはいけないことがあるから。
 「うちに寄っていかない?」
私はその男に聞いた。新宿を挟んで我々は正反対の方向に住んでいるが連れて帰って好きだと抱き締めようと思ったから。その男は少し悩み私の家に寄っていくことになった。
 終電間際の電車で2人無言でつり輪をつかむ。いい大人なのでこれから何が起きるか言葉にしなくてもわかっているのだ。少しの緊張と酔ってとろけそうな頭とほどよい疲労感の身体。何もない都会のようで田舎の街を走る電車の車窓に反射するその男の顔を見ていた。その男は視線が交わらないようにどこかを見ていた。
 あと1駅で私の住む街。
沈黙に耐えかねて好きだと言ったら、「しー」と静かにして、のジェスチャーをしてした。告白して黙れと言うのか。なんと面白い男だろう。挑戦的な意地悪だ。一旦黙り「しー」の指示に従い電車を下りた。
 駅から家に向かう道でもう1度好きだと言ったら強く抱き締められた。返事の言葉も表情も何もかも飛び越えて衝動だけだった。口下手なその男にはうまいこと返事をするための言葉が見つからなかったのだろう。そのままキスをして2人で家に帰った。好きな男と朝まで一緒にいるのに告白の返事も理由も言い訳も何もいらない。
 
 翌朝のことはあまり覚えていないが幸福ボケというか、恋の色気に当たってボーッとしてしまった。
 1つ確認したのは、その男が好きになってしまったから恋人と別れたことを伝えると「俺のこと好きだから別れたの?」とニヤニヤしていた。その男の自尊心を満たしたのだろうか。告白の返事は聞けなかったが、その男を玄関で見送ったあと少ししてから「ベランダから見送ってくれないの?」と連絡がきて、好きとは言わないけど愛を乞うその姿がいとおしく感じたのだ。