悪夢

- 悪夢 -
中央階段の横にあるトイレ掃除は陰湿な女子たちによるいじめの温床となっていた。
監視の目が届かないことを利用したいじめが増えたので、女子トイレに防犯カメラを1箇所だけ設置することになった。
少しでもサボった様子が見られると、えいらん先生が様子見にやってきた。
「何してるんですか」
えいらん先生がりなを睨む。りなは今まで他の奴らにいじめられていたので、ここに来て立ちすくんでしまっていたらしかった。
「ちゃんと…掃除してましたよ…」
りなは少し震えた声で言い返す。
「防犯カメラに映ってたから」
えいらん先生はピシャリと言い放った。
「…わかりました」
えいらん先生は私たちには目もくれず、さっさとその場から立ち去った。
「何してるの?あやなー」
私が、トイレに入ろうとした瞬間、足を引っ掛けられてその場に私は倒れた。
「いった…」
カメラの真正面だった。
「あやなっていっつもいい子ぶってるよねー」
周りのやつらが私の服を剥ごうとしていた。私の姿がカメラに映るように。
「やめて」
「ふっふふ」
抵抗はしたが、流石に複数人相手だと1人では脱出することも出来ない。
下着がめくれていく。不快感で頭がおかしくなりそうだった。
「あっ先生だ」
みんなはさっさと私から離れて、掃除をしている振りをした。私はえいらん先生に見つかってしまったので、勇気を振り絞ってこのことを訴えた。
「助けてください!こいつらが裏切ったんです!カメラに映ってましたよね」
「気のせいじゃない?」
えいらん先生はそう言った。
先生もグルだった。
怖くなった私は、服がはだけるのも構わずその場から逃げ出した。階段を駆け下り、渡り廊下から本館へ行き、後藤先生のいるカウンターへやってきた。その中の棚の影へと滑り込むと、近くで廊下を掃除していたまなとれいかがやってきた。
「後藤先生、助けてください!」
「あやなさん?なんて格好してるの」
「プッ。ふふ…あやなそういう趣味だったの?」
「あいつらにやられました。みんなに裏切られたんです」
「みんなって誰ですか」
「なになに?なんの話?」
「あやなって露出狂なの?」
まなとれいかは私の話を信じていないのか、ケラケラと笑い声をあげている。
「違うって。…えいらん先生の所にいるヤツらです。みんな通報してください」
「ふーん。何があったの?」
「えっと…ここじゃ言えません…」
私にとってトラウマになりかけていることを、そう簡単に口にすることは出来なかった。思い出そうとしただけで、吐き気がしてしまいそうだった。
「それを信じろっていうの?」
「…カメラがあるはずです」
「…わかったわ。みんなこっちを見なさい。…笑ってはいないね」
まだ半信半疑の様子の後藤先生がそういった。仕方の無いこととわかってはいても、私は少し腹が立った。
「当たり前じゃないですか」
「笑い事じゃなくなっては来てるよね」
まなはまだ少し口の端に苦笑いが残っていたが、大体は察してくれたみたいだった。
「とりあえずえいらん先生のいる部屋にあるカメラ映像を探してください。多分3回だった気がします」
「じゃあ私たちも行きますか」
「三階だっけ」
カウンターに残ったのは私ときりえだけだった。
「四階だよ。ゆきえのいるところでしょ」
きりえは私を落ち着かせようとしてくれているようだった。私の話も笑わないでちゃんと聞いてくれていた。
「うん」
「りな!」
「…」
れいかと一緒に降りてきたりなは、泣いていた。持っている手紙に視線を向けて、震えながらそれを読みあげようとしていた。
「その手紙を読む前に、みんながどこにいるか教えろ!」
りなは顔を上げず、手紙を読み始めた。
「『あやなへ。みんなのことはもう忘れていいよ』」
「一生軽蔑するよ」
こんな言葉言いたくはなかった。でも、そうでもしないとりなまで私の味方じゃなくなってしまうような気がした。
「…みんな死んだよ」
こんな脅すような言い方をして、りなから答えが返ってくるとは思ってなかったけれど。答えてくれただけで少し落ち着くことが出来た。
「そう…ならいい」
「えっ」
きりえが驚いた顔でこちらを見る。
「『とても美味しかったなぁ…さようなら』」
りなは手紙の続きを読み始めた。
「だってそれだけわかればいいもの」
本当に死んでいようが、私を脅かすものがいなくなった、それだけ。りなときりえは私の味方でいてくれている。
だったらもうそれでいい。
「いいの?」
きりえは動揺していた。本当に死んだかどうかは私もまだ半信半疑だったが、手紙の内容を聞けば全容がわかるかもしれなかった。
「一応話は最後まで聞くよ」
「『えいらん先生は私を体育倉庫に閉じ込めたことがあったね』」
初めて聞いた。りなは読み上げるのをやめなかったが、私はもうりなの言葉を聴いていなかった。あまりにも衝撃的なことが連続していて、頭が真っ白になった。自然と視界も白んできて、これは夢なのだろうか、と考えた。
夢であって欲しかった。
夢ならば、これは目を開けたら終わるのだろう。
私は目を開けた。
目が覚めると、腕組みをした体勢で寝ていたことがわかった。なぜこんな姿勢なのかがとても気になると同時に、さっきまでの出来事が脳裏に蘇った。夢とは思えないほどのリアリティと、忘れてはいけないような重苦しさ。
私はすぐさまスマホの画面をつけ、メモ帳を開いた。