電車

仕事を終えて帰宅途中いつもの電車に乗り込み、程よく空いてる席に座った。
すると、向かいの座席に中学生くらいと思われる少女が口にタオルを当ててうつむいてる姿が目に飛び込んできた。
隣にはおばさんが二人座っている。
一人は少女の背中をさすりながら
「あと少しだからがんばりな!!」と声をかけている。
あ、具合が悪いのかな?と思った。
よく見てみると、少女の座っている座席の足元には大きなスポーツバッグとビニール袋が複数あり、その付近だけがエアポケットのように避けられてる気がした。
ちょっと前に戻してしまったのか??と私は思った。
近くに少女の連れと察するもう一人の少女が何やら携帯で話している。
何となく見過ごせない光景に私は気を取られていた。
電車は数分おきに発着を繰り返し、まばらだった車両内も混雑し始めてきた。
おばさんは一生懸命少女を介抱する。
その会話からこのおばさんたちが少女とは何の関係もない、たまたま乗り合わせた人物なのだと推測出来た。
そしてこの少女たちが部活動帰りに起こしたアクシデントに快く対応してくれている事も伝わってきた。
そんな会話の一部始終をどうしたって周囲にいる人たちにも入ってきてしまう。
私も何だか目が離せなくなった。
すると、連れの少女が両親に連絡が取れた!!とおばさんに報告する。
○○駅に迎えに来て待機してくれているとの事
おばさんは少女に向かって、「これも何かの縁だし、私たちも最後まで付き合うから!!その駅で降りるわ!」
そんなやりとりをしている。
その間も少女はビニールを顔に当てて苦しそうだった。
ティッシュやビニールの山が増えていく
私はこの日風邪気味で朝から鼻水が止まらず、たまたまティッシュを箱ごと持っていた。
私はどのタイミングでそれを渡そうかと躊躇していた。
もうこのアクシデントを見過ごせない気持ちになっていた。
おそらく、おばさんたちも持っていたティッシュの類を全て使い切ってしまったであろう事は見ている限りでわかる。
少女の手前にも既に人が立ち並び車両はだいぶ混雑し始めていた
立ち並ぶ人と人との隙間から少女やおばさんのやり取りを目で追った。
状況を理解していない人々が次々乗車してきたり、入れ替わる中で少女の周辺も慌ただしくなっていく
しかしもうすぐ少女たちが降りる予定の駅名がアナウンスされると、どうにもならない状況が少女を襲った。
その瞬間、少女の周りにいた全ての乗客たちが一斉にティッシュを差し出した!
吊革に摑まっていたサラリーマン風の男性は胸ポケットから、座席で本を読んでいた女性はバッグから
こういう表現もどうかと思うが、本当にコントのように一斉に同じタイミングで大勢の人たちがティッシュを差し出した!
私は正直この事に驚いた。
辺りにいた人たちも私と同様な気持ちでこの一部始終を見守っていたのだろう
その事が私には衝撃的だった。
一見何の関心もないように見えた周りの人たちがこの事を通じて一致団結と言うか、同じ気持ちになってひとつにまとまる。
人に無関心と言われる時代だけれど、嫌々、そんなに捨てたもんじゃない!!
と私は思った。
すかさず私も席を立ち「良かったらこれも使ってください!!」とおばさんにティッシュボックスごと手渡した。
おばさんは「ありがとう!!助かります!!」と言い少女の介抱を続けた。
それから近くにいた若い男性が「僕が彼女を抱えて電車を降ります!」と名乗り出た。
そして少女は男性に抱えられ、おばさんたちに付き添われ、目的の駅で列車を降りて行った。
見事な連携だった
後始末もきちんとされ、何事もなかったように又見知らぬ乗客が次々乗り込んで来る
こんなドラマがあった事を一瞬でかき消すかのように別の時間が再び流れて行く
でも私の心は何だか温かい余韻にいつまでも包まれたままだった。