彼女の周りにはぼくが18人います

彼女の周りには、ぼくが18人いる。
Twitterをつかって新しいアカウントをつくり、そのたびに架空の人間を演じて、彼女に画面上で接触する。
そうして接触を積み重ねる日々を始めてから、早くも半年が経つ。
気づいたら17人の架空の人間が出来ていた。
なんでこんなことになったのか。
ぱっと答えられる答えは未だに浮かばない。
でも、どうしてこうなったのかは分かる。
そしてちょうどこれを書いてる今日、ぼくはこの日々をどこかに吐きたいと思った。
だから、誰に見せたいでもなく、共感してほしいわけでも指導してほしいわけでも文章力を上げたい訳でもないけど。
ここに吐きたいと思う。
高校2年の時に知り合った彼女。
きっかけはSNS。
クラスも部活も違うし、週に一度だけある美術の時間以外で彼女と共有できる時間はなかった。
SNSで知り合った彼女と美術の時間ではじめて話した時、顔がアイドルみたいで可愛かったから仲良くなった。
そしたら性格も可愛くて、気づいたら意識してた。
1度告った。
振られた。
残念だけど今は好きな人がいないから付き合えない、って断られた。
断り方が意味わかんなかった。
好きな人がいないから付き合わないって。
いたとしてもぼくじゃないんだろうな。
彼女はモテモテで、同じ時期にぼく含めて5人の男が彼女に想いを寄せていた。
運の悪いことにその5人は仲が良かった。
放課後に集まってゲームをするような関係だった。
仲良しだからこそ、5人で遊んでいる時に彼女の話をするのはNGだと暗黙の約束があった。
それだけを避けて。
でも各々に心の奥で気にしながら過ごしていた。
仲間というにもライバルというにも煮え切らない5人だった。
ぼくが告白して振られて2ヶ月くらいあと。
高校生活最後の秋が散り始めた時期。
彼女に想いを寄せる男のうちのひとりと、あとぼくと、彼女の3人でカラオケに行くことになった。
さすがに振られてから2ヶ月が経っていたから、諦めるとか諦めないとかよりも、都合よくそばにいて都合よく遊んでたいって気持ちが強くなってた。
あわよくば付き合えるんじゃないかと馬鹿な妄想も膨らませたりしてた。
カラオケ当日、駐車場には男の姿しかなかった。そいつはスズモトくんって名前。
「あいつ遅れるって。先入ってる?」
スズモトはぼくが駐車場のすみっこにチャリンコを止めたのを確認してそう言った。
なんでぼくのとこには連絡がきてないのにスズモトのとこにはきてるんだろうか、と考えていたら嫉妬心がふつふつと湧いてきて、複雑だった。
ぼくはなんにも知らないくせに
「らしいね。どのくらい遅れるんだろね。」
って返した。
「15分くらいみたい。」
そこまで連絡がきてたのか。いいな。
「15分ならまぁ待てるでしょ。ここで来るの待ってよ。」
スズモトのことは全然嫌いじゃなかったし、二人きりになることも苦痛じゃなかったし、なんならこのまま2人でカラオケでもそれはそれでいいなって思えるくらいだったけど、遅刻の彼女を待つまでの15分でぼくはスズモトのことが嫌いになった。
最初はスズモトの一言から始まった。
「...あいつとどんな感じ?」
それは男たちの中で禁句とされてきた言葉だった。
スズモトはずっしりとした重い扉を恐る恐る開くみたいに聞いてきた。
「別に。進んでもいないし仲悪くなってもない。おまえは?」
悔しいけど素直に答える他、何も無かった。
でも、実は2人で映画に行ったとか、2人で川越まで出かけたとか、そういうのは内緒にしておいた。
ここでスズモトを落ち込ませるのはカラオケ前なのに酷い気がしたから。
むしろこっちもスズモトとの関係が気になっていた。
スズモトは彼女とクラスが同じで、いつも一緒にいる印象がつよかった。
彼女も彼女でそれを受け入れていて、わんわんと人懐っこく付いてくるスズモトの飼い主みたいに見えた。
だからもう既に付き合ってるとか言われても、意外ではなかった。
だが、幸いなことにそれは言われなかった。
「仲の良さはいい感じ。ぼちぼちかな。なんとも。」
「付き合えそうなの?」
「うん。このまま順調にいけば。」
そこまでの自信を持って言えるスズモトを一瞬憎んだ。
「...そっか。悔しい。」
「付き合えたら4人目。」
「彼女が?」
「うん。」
「経験豊富ね。」
不思議と、彼女というポジションの人間と過ごす経験が4回目だということを羨ましいとは思わなかった。
経験人数や思い出で比べるものではないと心の底から感じていたから。
ぼくにとってそれはどうでもいいことだった。
ただただ、あの子がスズモトのものになることだけが悔しかった。
「まー大変だけど幸せ。」
「なにが?」
好きな人といい感じになっていて大変だとは何様なんだろうか。
「えっ。だって3人同時に付き合ってるんだよ。それでさらに新しい好きな人ができたから追ってて。今日も3人のうちの1人とお祭に行くし。バレないようにするの難しいから大変。」
世界が硬直した。
さっきまで聞こえていた井戸端会議中のおばちゃんの声も、自動ドアが開く度に聴こえてくる流行りのbacknumberの新曲も、車のエンジン音も、すべてが聞こえなくなって。
目の前の怪物の声だけがはっきり聞こえた。
比喩とかじゃなくてほんとに。そんな感じ。
「え。」
風が二人の間を駆け抜けた。
どうやらスズモトは、4股を狙っていたらしかった。
スズモトはあまりにも、その事実を自然に話した。
そこに木がある、とか、ぼくは男だ。と発言するときのトーンみたいに。
淀みのない真っ直ぐな声でそう言ってきた。
ぼくはこのとき、ぼくがあの子と付き合いたいとか、あの子の幸せを願いたいとか、そんなのがぜんぶ吹っ飛んで。
ただ、目の前の怪物をあの子から遠ざけてやると決意した。
そしてその決意が、ぼくの人生を壊していくことになった。