男の威厳。

わたしは肩こりのプロであり、もう20年以上コリっぱなしである。いつもカチコチであり、マッサージ屋さんにはちとうるさい人物である。
先日も最近できたお気に入りのマッサージ屋に行ってきた。
店に着き、いつもの手順でベッドにうつ伏せになる。
お兄さんが問う。
(今日はどの辺が?)
「エッヘン、腰と肩を」
マッサージが始まり、次の質問が来る。
(強さは?)
「ウォッホン、もっと強くおねがいします」
わたしのコリをほぐせるもんならほぐしてみたまえ。なにせ私はプロだからな。
しかし、さすがはわたしのお気に入りのお兄さん。グイグイと親指がからだにめり込むのがわかる。
わたしはプロなので、痛くても声を上げない。微動だにしない。
(なんてことはない)、という涼しい顔を見せなければならない。やせがまんこそプロの条件なのだ。
しかし、先日は筋肉痛で本当に腰が痛かった。痛かったのだよ。
グイとされた一瞬、背筋と腹筋にチカラが入ってしまって、信じられない悲劇が起こった。
「プーッ」
小さい音だったはずだ。出す気はなかった。きっと、グイグイする親指が、スイッチを押したのだ。人体はそういう構造になっている。わたしの意思ではないのだ。神様のせいだ。ああ、いやな汗が出てきた。最近お肉は食べてないからそんなにくさくないはずだ、どちらかといえばいいにおいかもしれない。いや、においもなくて気づかれないと思う。そうだ、気づかれないはずだ。
一瞬のうちに言い訳を千ほど考えた。
お兄さんの親指の力がフッと抜けたのがわかった。しかしすぐ、元の強さに戻った。
本当のプロはお兄さんだった。
マッサージ終了後、来た時の何倍もの肩こりを抱えて、逃げるように家に帰って少し泣いた。