好きな人の話(レモン風味)

高校生のときにすごく好きだった女の子がいた。彼女は色白ですっとした顔立ちの美人で、いつも制服のリボンをきっちり止めて、膝丈のスカートは綺麗にプリーツがきいて、背が高くて足が細くて、綺麗な子だった。仮に鈴木さんとしよう。
鈴木さんは1年目はほとんど学校に来ず、2年で同じ専門教科を選択したために、よく一緒にいるようになった。ただし、「わたしは絶対に友達を作らない」というのが彼女のポリシーだったため、残念ながら友達にはなれなかった。わたしも大して気の合わないグループ行動が面倒になっていて、ただわたしの場合は1人でカッコつけて学校生活を送れるほど要領がよくなかったので、授業のことなどを気軽に聞ける同級生が必要だった。それ以外を求めない、という部分で暗黙のうちに我々の利害は一致した。
それでも少しばかり話をするうちに、わたしは彼女といるのが好きになってしまった。たとえば、細胞って宇宙みたいだよね、とか、そういうたわいもないことについて、鈴木さんは必ず鈴木さんの視点で返してくれる。そんな人は今までいなかったし、わたしも別にミトコンドリアDNAについて誰かに話したいと思ったことなんてなかった。あの先生がうざいとか、誰々が自分の真似をしているとか、そんなしょうもない相槌に飽き飽きしていたので、彼女とのやりとりは新鮮だった。
「あんた、鈴木さんのこと大好きだよね」とある日中学からの友人に言われた。「鈴木さんのことばっかり話してるよ」と。そう言われるくらいわたしは単純でわかりやすかった。「でも友達じゃないからね」。うん、でもこれはまずいんじゃないかな。あんまり近づき過ぎると絶対に引かれる、とわたしは本能的に思った。
そんなわけで、わたしは極力自分からは話しかけないようにしていた。もちろんメールなどもしない。気分屋な鈴木さんはしょっちゅう学校をサボるけど、理由なんか知らないし聞かない。鈴木さんは鈴木さんで、うっかりプライベート(というのも変だが)な話、たとえば中学や家族の話など、をすると、しまった、という顔になる。わたしはそれもなんだか面白かった。「友達を作らない」という意固地さが幼稚だと思っていたし、その子供っぽさと普段の澄ました態度のギャップにも興味を惹かれた。
しかしながら、私が鈴木さんについて知ったことと言えば、生物が好きで、ついでに村上春樹と夏目漱石が好きで、田舎が嫌いだ(田舎の高校だった)、ということだけに終わった。高校の卒業式(なんか2人でサボったような気もする、どうだったろうか)が終わった後、とても嬉しい、晴れ晴れした、と言う彼女の発言で、わたしは地味に失恋(?)した。高校という唯一の接点がなくなれば、もう会うことがないのはわかっていたので。わたしも早く卒業したいと思っていたのに、突然、ぐうっと寂しくなった。なんなら少し泣きそうになった。
「どうやら、わたしは鈴木さんが結構好きだったみたいなんだけど」と消沈しながら例の中学の友人に言ったら、「遅ぇよ」とすげなく返された。「寂しい、どうしよう」とわたしは呻いたけれども、どうしようもなかった。仕方なくわたしはこの思い出を大学まで引きずり、開き直って「鈴木さんを超える人としか付き合わない」と公言して呆れられた。どちらかというと、こちらが黒歴史だと思っている。