インスタントカメラマン

 昨日車で三十分のダム湖の公園に妻と行ってきた。
天気は快晴で色々な小鳥の鳴き声がBGMになっており、それなりに雰囲気があった。
この公園は穴場なので滅多に他の人に会う事が無い。
 だだっ広い空間に私たち二人だけしかいないと思うと不思議な感覚におちいる。
ここには年に何度か訪れる。
春になるとダム湖沿いに桜が満開になるのでそれを見るためのドライブに出かける。
そして秋には紅葉である。
見ごたえがあって渋滞もない田舎の山奥は貴重なデートスポットである。
 昔付き合い始めの頃に最初に案内した時はそれはもう感動をしてくれた。
まだ携帯電話がガラケーの時代だったが妻は何枚も写真を撮っていたのを昨日のように覚えている。
以来二人の間では「あの公園」と言えば通じる秘密の言葉になっていった。
 しかしお互いに仕事が忙しくなると休みが合わなくなって二人でどこかに出かける機会はめっきり減った。
一緒に暮らしているので寂しいという感情は全くないが、時には意識してどこかに出かけないと生活が煮詰まって何となくお互いがイライラしてしまう事になりがちである。
 なので昨日は私が少し日程調整をして時間を作った。
そして出かけたのが冒頭のダム湖公園である。
風はあまりなくこの時期にしては暖かい一日だった。
足元に落ちている落葉をサクリサクリと踏みしめながら公園の奥に進んでいく。
公園の一番奥にはモニュメントがあり、そこから後ろに振り向くと公園が一望でき紅葉した木々を見渡すことが出来る。
妻はここから見る風景が大好きで今回もスマートフォンでパシャパシャと撮っていた。
 ここで仲のいい夫婦なら自撮りをするのだろうがあいにく私は写真に撮られるのが大の苦手なのでそれだけは勘弁してもらっている。
毎回不満そうな顔をされるが駄目なものはいかんともしがたいのでカメラマンしますよと撮影を買って出る。
すると妻は落葉を拾って顔に近づけたり、紅葉した木に寄り掛かってアンニュイな表情をしたりと被写体としての自分の演出を十二分に楽しむのである。
 私はいつ終わるとも知れないその撮影ショーに良いね!そのアングルナイスと言いつつ、そして必ず「可愛いね」の言葉を添えるのを忘れない。
妻はそうでしょうともと自信満々で撮影に挑む。
 普段は決して目立とうというタイプの人ではないのだが、何と言っても観客はゼロである。
少々羽目を外したところで誰も見ていないという安心感が彼女を大胆にさせる。
私も冗談半分で遊びながら写真を撮るのでまあ楽しい。
 その調子で撮影を楽しんでいたら妻の足元に小型犬が映りこんだ、あれ?どこから来たんだ。
と思って後ろを振り返ってみると飼い主らしい七十代くらいの老夫婦がニコニコしながらこちらに歩いてきた。
み、見られたー!と顔が真っ赤になるのが分かる、妻もバツが悪そうにしている。
こんにちは、と声をかけられたがどうもと返すので精一杯だった。
こうして二人だけのノリノリの撮影会は唐突に幕を下ろした。
 後で妻から何で気が付かなかったのかと激しく責められた、もう恥ずかしかったー。
そういう彼女の顔は昔より少し大人になっていたが可愛らしさは変わらないなぁとほのぼのと思った。
毎日顔を会わせる夫婦だからこそ、お休みの日はたまにはどこかに出かけませんか?
近場で構いませんから。