自分のためにただ文章を書くということ

わたしが最初に、
じぶんは文章を書くのが好きだな
と思ったのは、
中学2年生のときの学年文集だ
一年のしめくくりに
作文とか
クラスのなんとかランキングとか
漫画が得意な子の漫画とか
そういうのがまとめられる冊子。
わたしの時代はまだガリ版刷りだったな。
わたしは中学生の三年間、
ほとんどクラスの人と口をきかずに過ごした
友達もつくらなかった
ひとりで本を読んでる子だった
いま考えるとよくいじめられなかったな
(だからなんとなく綾波レイというキャラクターにはたいへん親近感を覚えるんだ
たぶんわたしはあんな感じだった)
クラスの人たちと交流しないから
学期末の文集に書くことなんてなかった
「楽しかった運動会」
「みんながんばった合唱コンクール」
ふつうはそういうタイトルの作文が並ぶ
わたしが書いたのは
自分がいかに意識を殺しながら中学校生活を無意味だと思っているか
そして今はそうするしかないという無力さへのあきらめ
という、詩なのか散文なのか
「12月の石は、空と同じ色をしていた。」というような書き出しで始まる文
中二病満載なのだけど
ふつうの縦書きの作文が並ぶ中に
なぞのシニカル気取った横書きの散文は明らかに浮いていた
リアルに中二だった
わたしはそのころ
ヘッド博士の世界塔の頃のフリッパーズギターや
デビューしたころのスピッツにハマっていて
そこから引用したフレーズを取り入れたりもした
まわりにはそういう音楽を聴いている人はいなかった
一方で
その頃のシングライクトーキングの藤田千章先生の書く、
独特の改行を駆使した美しい日本語の歌詞にも多分に影響を受けていた
自分には音楽は作れないから
歌詞は書けないけど
学校の作文とかでなく、好きに書いていい文章というのがあるのかもしれないと
その時思った気がする
作文ぽくない文章を提出して
先生にもなにも言われなかったけど
わたしは
楽しくもなかった遠足の作文を無意味に書くくらいなら
ちゃんと自分の気持ちを表せたものが書けた気がしていた
それはただの自己満足で終わったことだった
その文集が出た翌年の秋頃。
放課後に掃除が終わって帰ろうとしてたとき、
クラスの中でも目立ったイケメンで中心的リーダーみたいな人気者男子とたまたま教室で2人だった
わたしには縁のない階層にいる子だ
無言で帰ろうとしたら
きゅうに呼び止められて
「なあ、おまえさあ、…小説とか書くの?」
「え?」
「いやあのさ、去年の、学年文集さ、なんかおまえの書いてた文がすげえなってずっと思っててさ、感動して」
「え?」
「いや、おまえ、なんか多分才能あるよ。前から、もっと読んでみたいって思ってたんだけど、言う機会なくてさ」
「…ありがとう。でも、小説なんて書いたことないよ」
「書いてみれば?」
「どうして?」
「そっか、そうだよな、ごめんな急に」
「うん。じゃあね。」
その男子とまともに会話したのは卒業するまで多分この時いちどきりだ
びっくりした
学年文集なんてちゃんと読むんだ
しかも去年の文集の話じゃないか
あの子はずっとそんなこと気にしてくれていたの?
あんな人気者がわたしの文章なんかを?
でもスピッツやフリッパーズの歌詞とかにインスパイアされてる背景を
彼は知らないだろうから
ぜんぶがオリジナルだと思われていたらそれはなんか申し訳ないけど
でも…なんか、うれしかった。
確かにわたし、あの文章書いてるとに楽しかったんだな
そして、それが、誰かになにかを伝えることができたんだな
漫画とかならこれがきっかけて恋につながるんだろうけど
そのときはそんなことはまったくなかった
作文や読書感想文で賞をもらうことは何度かあった
でもそれは、授業や宿題でやったことで、書きたいものを書いたものではなかった
授業や宿題でなくても
書きたいものを書く
なんの目的がなくても
そういうことをしてもいいんだ
と初めて知ったのが多分その時だ
あの子がわたしの文章を読んでなにか感じてくれて、
それをわざわざ伝えてくれた
あの一瞬のシーンのことはずっと覚えている


それからは家でノートに太い黒ペンで
感情のままに
日記とも詩ともいえない
ちょっとかっこつけた文章を書くことで自分の気持ちを整理する
という術を覚えた
わたしが中学生のころには
インターネットなんてなかったけど
ショートノートにいま
乱暴に自分の思いを書き綴るのは
あの頃、くじらの絵の深い青の表紙のノートに
太いペンで書き殴っていたものと
何も変わらないのだ
小説が書けるほどの才能なんてないけど、
自分のために
文章を書く
という手段を自分が持てていてよかった
いろんなひとのショートノートをよんでハートをつけたり
つけてもらったりするたび
わたしはたまに、
中学生のあのころ
あの子がわたしの文章を読んでなにか感じてくれたことを伝えてくれた
あのシーンを思い出す
というか、あのくじらのノートまだきっと実家にあるな
いつか回収しとかないとはずかしいな