帰省

我が家では、私と子どもが帰省すると帰りは夫が車で迎えに来て、2泊ほどしてみんなで帰る。
帰り道にはほぼ毎回、私と夫の卒業した大学周辺を散策する。
娘にとっては退屈すぎる寄り道だ。
前回寄った時には、二人でよく行った小さな食堂が潰れていてがっかりした。
さて、今年は……といっても、前回と大差はない。大学構内が少し綺麗になってたかな?
私としては、よく行った食堂がなくなったことが一つの区切りになっている。思い出の場所は変わったのだ、と。
ぶ〜垂れる娘に対して夫は活き活きとして「ここに住んでたんだ」とか「お母さんとお父さん、ここで出会ったんだよ!」なんて話す。
あのね、娘にしたら『その話、何回め?』って感じだと思うの。ほら、娘の目が死んでる。帰りてぇ〜ってエクトプラズム、出てる出てる!!気づけ、夫!
「変わったね」「変わってないね」を繰り返しながら、いつになく饒舌な夫。
「私の教授は退官しちゃったけど、あなたのところはどうだったっけ?」
「研究室ごとなくなっちゃったよ」
「そっか。よかったね、なくなる前に学べて」
「ほんとだよ。よかった」
その屈託ない返事に、いつまで大学に寄り道し続けるつもりなんだろうと少し呆れていた私はふと、ここが夫にとってもう一つの故郷なのではないかと思った。
今の彼の原点がここにあるのだ。
仕事も、友人も。ついでに私も。
この大学を選び、過ごした日々が今の彼に続いている。
そして、たぶん。
たぶん、彼が一番自分らしく屈託なく生きていた時間であり、場所なのだ。
大学への寄り道は、就職後ずっと実家近くに住む彼にとって、故郷に帰る感じに近いのかもしれない。
子ども達の眠る車内で夫となんでもない話をたくさんした。
それは高速道路で眠くならないように、というのもあるだろうけど…ごきげんな彼の声には、その昔私が好きにならずにはいられなかった悪魔的なナニカの片鱗が見え隠れしていた。
カーステレオは大学生の頃、二人で聞いた曲が流れる。
わかってるなぁ…なんて思いながら、私はそれを口にはしなかった。