臆病者

 臆病者になってしまった。
怖いものはたくさんある。お化け屋敷ではびっくりして叫んでしまう。夜道は早足で逃げるように帰る。ジェットコースターはもう何年も乗っていない。元々臆病ではあった。
 原因はその男だ。 
その男がいなくなることが怖いのだ。一緒にいることのほうが少ないのだからいなくても当たり前と考えるほうが自然なのだが、その男に大切にされればされるほどいなくなってしまうことへの怖さが増す。
 
 連絡が途絶えればどうしようと、待ち合わせの時間に来なかったらどうしようと、別れ際にこれが最後の顔合わせになったらどうしようと、ありとあらゆるどうしようが溢れてくる。
 一緒に寝ていてその男が布団のなかに潜り見えなくなったとき寝起きの私はその男がいなくなってしまったとあわてふためく。布団の奥に見慣れた坊主頭を見つけて我に返り落ち着く。
 
 こんなに臆病で寂しがりやだっただろうか。その男はまるで私の安息の地でなくしたくない大切な場所になっているようだ。できればひとりでも大丈夫と気丈に笑っていられるくらい強い人でいたいのだが、それがなかなか難しいのである。