恐怖症

「集合体恐怖症ですか」
と私は言った。
「ええ、そうなんですよ」
と彼は答えた。
「だからあの新しいスマホ、カメラのレンズがいっぱいついてるやつ、CMとか流れるとビクッとしちゃって」
最近そういう人増えてますね〜なんてありきたりな話を私たちはする。
「でもスマホなんて元々穴だらけじゃないですか。ほら、私のは旧型だけどレンズの横にライトの穴があるし、マイクの穴はこんなに並んでる」
あまり考えないようにしてるんですよ〜と嘆きながら彼は答える。
「2個くらいなら別に…。
だんだん大きくなるとか、あとそうだな、斜めだと嫌ですねぇ、なんとなく」
「ふふ、一個、二個、たくさん!ですかね?」
「そういうと原始人みたいじゃないですか〜やめてくださいよ〜」
徐々に打ち解けていく私たちは、少しだけ親密さが漏れる会話をする。ふざけて脅したり、大げさに怖がってみせたり。綺麗に整った歯を見せて、彼は明るく笑う。
「タイルや壁紙の模様とかどうですか?」
「物によりますねぇ。でもだいたい汚れて柄がわかりにくいから、あんまり。籠とかダメですね、荒いやつ。規則正しくだんだん広がっていく感じが」
それでもフェンスの金網は気にならないというのが不思議だ。
「あと昔流行ったドリームキャッチャー。あれ周りに変なのもついてるし、見てると網目がぐるぐるしてきて苦手ですね。逆に悪夢を見そう」
そもそもなにが怖いんですか?と前から気になっていたことを私は聞く。恐怖症は形のないものだから、答えを期待しないままに。
「そうですね、なにか威嚇されてる気になります。追い返されているような、蛇にシャー!ってされてるみたいな。なんかトラウマがあるのかな、変なこと思い出しそうな気がするんですよね」
意外と明確な答えが返ってきて私は戸惑う。そして、少し不安になって後悔する。
「あ〜、じゃあ悪かったかなぁ、知らなかったから。今日行くとこ、あまりお好きじゃないかもしれません」
たどり着いたのは国立の博物館。特集で展示されているのは、世界各地の魔除け儀式。
「ほら、こういうのって結構網とか玉とか、集合体多いですから…大体人ならざる侵入者に、こっち来んな!って脅かすためのものじゃないですか」
「やだなぁ、脅される側なんですか?じゃああなたが魔物ってことじゃないですか」
予定を変更しましょうか?と聞く私に、彼は笑顔で首を横に振る。
「いやいや、もうチケットあるのでしょう?レプリカ展示を怖がったりなんかしませんよ…、それになんだろう、なんか思い出せそうだし。そろそろトラウマを克服する年かもしれません」
ポスターを見つめたまま彼は答える。写っているのは、古い魔除け儀式に使用された飾り。木の枝に刺した魚の頭がたくさん並んでいる。断末魔のように開けられた口から覗く鋭い歯。落ち窪んだ目玉が大量に並んでいるのは、恐怖症でなくとも不気味さを覚える。
「いやいや、なんか楽しみになってきたな。今日で集合体恐怖症を克服して見せますよ!」
やたらにテンションの高い彼は先に博物館へ入っていく。その目が少しだけ血走っていたような、その口が鋭い牙を少しだけ覗かせていたような気がするのは、私の見間違いだろうか。