酒との出会い

高校一年の秋 祖父が亡くなった。
脳梗塞で倒れた後もベッドの下に酒を隠し持っていた祖父だった。優しい祖父だったが根っからの酒飲みだった。
そんな祖父の葬儀の日,火葬場で火葬が終わるまでの時間に酒が振る舞われた。
「信之さんはもう飲めるわよね。どうぞ!」
大叔母に当たる田中のおばさんが,茶碗を差し出し一升瓶から酒をついでくれた。
その酒を飲みながら,煙突から出る煙を眺め祖父が天に帰っていくのを見つめていた。
酒はうまかった。おそらく酒をうまいと思って飲んだのは,このときが初めてだった。
すぐに茶碗の酒は空になった。
「あら,やっぱりおじいさん孫ですね。もう一杯どうぞ!」
気の利く田中のおばさんがおかわりを勧めてくれた。
はじめはもう結構と断っていたものの,
「お清めですから,どうぞどうぞ。」
と勧められ,再び茶碗に酒が注がれた。
その後も,勧められるがままに数杯の茶碗酒を飲み干していた。
多少足下がふらついたが,実にいい酔い心地だった。
このとき以来,私は一丁前の呑兵衛になった。
母が後に言った。
「あの時,おじいさんがアンタに乗り移ったんだ!」
手先が器用で優しくて,とびきりの呑兵衛だった祖父が乗り移ってくれてよかった!と今でも思う。