彼女の周りにはぼくが18人います その2

スズモトをイチルちゃん(ぼくの好きな人)からどう離してやろうか考えるだけで時間が過ぎた。
カラオケを終えて、その日遊ぶ約束をしていた幼馴染の姉妹と地元の和食屋で夕飯を食べた。
普段食べているマックや吉野家、サイゼリヤの3倍はいくであろう値段の和食。
最初は引き気味だった姉妹もぼくの「奢るから。」の一言を聞くやいなや、これも!これも!と注文の数を増やしていった。
この子達に遠慮という概念があるのか不安になると同時に、自分がバイトで稼いだ金をつかって後輩に飯を奢る日がきたことに我ながら成長を感じた。
注文した料理も食い終わり、談笑タイムに突入。
姉妹は中学の様子や高校の部活のつらさ、最近できた友達についてなど楽しそうに話してくれた。
ぼくもそれに応えて学校のことや部活のことを話したりした。
各々満足のいくまで話し終えた頃、ぼくのスマホが細かに揺れた。
「こちらこそありがと!」
さきほど送っておいた「今日はありがと」に対してのあの子からの返信。
送ってから2時間後にくるとは。いったいそれまでLINEの通知も確認せずに何をしていたんだろう。もしやあいつと...。
そう考えるだけで胸が苦しくなった。
まだあのことは話してない。どう話せばいいかすらわからない。
ぼくは以前、似たような状況に出くわしたことがある。
高1の頃、自分と異様なほどに趣味や感性が似ている同級生の女子がいた。
その子に対して恋愛観は全くなかったが、ディズニーランドに2人で遊びに行ったり、日帰り旅行に出かけたり、家でゲームをして遊んだりする仲だった。
高1の終わりごろになって、その人に好きな男子ができた。
そいつはぼくと同じ部活に属してるやつで、一言で表すならばクズ日本代表みたいなやつだった。
簡単に二股や三股をして異性をもてあそび、浮気がバレても何回も平気な顔をして続け、しかもそれをぼくや他の友達に自慢したりおもしろおかしく話す奴だった。
それでも友達として関わる分には楽しくて、根は最悪だが表面は良い奴だったから(だからモテるんだろうし。)1年間仲良くつるんでた。
が、ぼくが仲良しだった女子がそいつのことを好きになったというと話は別だった。
どうしても恋愛だけはやめた方が良い気がした。
なにせそいつのクズさを女子は全く知らなかったから。
だからぼくはある遠足の日、そいつがむかしぼくに寄越していた浮気を自慢する内容のLINEをその女子にこっそり見せた。
最初は泣かせてしまった。それほど好きだったのかと知らなかったから驚いた。
だがそれから半年もしないうちに、ぼくの知らぬ間にぼくは嘘つきとして扱われていた。
嘘をついていない自信しかなかったが、もはや何を言ってもその女子はぼくの言葉を信じてくれなかった。
それどころか、好きな人を影で傷つけ、でまかせで信用を得ようとした最悪な人間だと言われた。
それはそっくりそのままあいつのことだと思ったが、そこでぼくは何も言い返せなかった。
結局その女子と好きな人は結ばれて、いまだに女子は彼の浮気を知らないまま幸せそうに過ごしている。
その記憶があったからこそ、ぼくは今回も、スズモトの浮気を伝えるのが怖かった。
むしろ、イチルちゃんからすれば、浮気に気づきさえしなければずっと幸せなんじゃないかとさえ思った。
このまま放っておいた方がいいんじゃないか。
ここで動いたら、また同じようになって、イチルちゃんにもぼくは嫌われて。
信用をなくして。
それなのに「わたしのことが好きで嘘をついちゃったんだね。ありがとう。」とか、そういう気持ち悪い優しさと笑顔と慈愛を、ぼくに向けられるんじゃないか。
そうなるのがこわかった。
だが、ぼくはどうしても諦めきれなかった。
前回は恋愛的に好きではない相手をかばって失敗したが、今回はぼくにとっても大好きな人だった。
大好きな人をかばえずに、浮気者が呑気に笑って過ごしてる様子を見てる未来。
想像するだけで苦痛で。
ぼくはそのとき、ひとつの案を浮かべた。
いっそ、スズモトがイチルちゃんのことを好きだという事実を、ぼくが知らないふりをすればいいのではないかと。
「浮気してるよ」というのではなくて、「○○さんのことが好きみたい。」と、イチルちゃん以外の人の名前を挙げれば、向こうも自然と浮気されていることに気づくんじゃないかと。そう思った。
ぼくはLINEを開き、
「そういえば、あいつ○○さんのこと好きみたい。今日もこれから祭だって。」
と入力した。
送信ボタンを押すのがこんなにも苦しいのは初めてだった。
入力欄から会話欄にメッセージが移動した時、ぼくは汗だくになっていた。