「タモリ倶楽部」かと思ったら、意外にも「タモリック・ラブ」

昼休み、外食でもしようとビルを出ると、どの店にも長い行列ができていて、とてもじゃないが並ぶ気になれない。初夏のように暖かく、金曜日ということもあって、全ての人が浮かれて見えた。
「愛の様子はどうだ?」
「もう取り返しがつかない」
店が空くまで、ベンチに座って待つことにした。Apple Musicでエゴラッピンが聴けるようになっていたので、古いものを何曲か聴いた。いつかのクリスマスに東京キネマ倶楽部で見たライブは素晴らしかった。その夜はロイヤルティーンズの『Short Shorts』のカヴァーを演奏していた。誰かが「タモリ倶楽部!」と叫んで興奮していた。
「もううんざりだ」
「それでも愛はお前を逃がさないだろう、その点において、おれとお前は完全に同じだ」
いちばん人気のない店の行列が落ち着いてきたので、そこに入った。イヤホンを片方外して、店員にカレーを注文した。サラダと粉チーズが運ばれてきたので、粉チーズをふんだんに塗してレタスを食べた。この店のルールはよく知らないが、ひょっとしてこの粉チーズは本来スパゲティを注文した客にのみ提供されるものなのでは?と思った。でももう遅い。これはおれの粉チーズだ。誰にも渡さない。
「まったく冗談じゃない」
「おれもそう思っていた、もう充分だ、これで最後だと思っていた」
「ところがそうはいかなかった?」
「ところがそうはいかなかった」
運ばれてきたつまらないカレーを食べた。本当につまらないカレーだったので、さっきの粉チーズの残りとテーブルに備え付けのチリソースをかけて、少しだけ面白いカレーにして食べた。iPhoneを操作して、エゴラッピンの聴いたことのない曲をいくつか聴いた。好きな曲もあったし、そうでない曲もあった。「そういえば中森明菜が『色彩のブルース』をカヴァーしていたよな」と思い出して検索してみたが、Apple Musicでは見つけられなかった。
「こんなことならもう何も要らない、誰も必要ない、とさえ思い始めている」
「優しいな」
「重度のナルシストだから」
「それはおれも同じだ」
「お前は冷た過ぎる」
会計を済ませてビルに向かって歩いた。本当に良い気候だったし、相変わらず往来する全員が浮足立って見えた。とはいえ、それどころではない者も間違いなく混じっている。
「葉巻、カイピリーニャ」
「バルバッコア」
「串カツでいいよ」
「とにかく棒に刺さった肉を食うべきだ」
あんなのはもううんざりだ、二度と御免蒙る、などと思っていても、喉元を過ぎれば「悲しみがポケットに二つ三つ入っていないと落ち着かない」などと言い出してしまう。それは多分、病気のようなものだ。彼女達の予感は正しい。真っ白な太陽。カレーに入っていた肉が奥歯に挟まっているのを感じる。
「乾いた米に汁をかけて食うもの全般が好きだ」
「ハニーソースウィート」
「『乾いた』しか合ってない」
「ハニー総帥」
「彼ピッピ好き好き大学肛門学部肛門科」
女の声がする。彼は愛系の人類、私や貴方と同じ。奥歯の肉片を舌で掻き出し、前歯で噛み砕いて飲み込む。なんと、美味しい。みんな間抜けだ。人間はどうしようもない。おれもお前も、マジで救いようがない。愛も、何もかも、全部どうしようもない。まったく抗い難いことだ。息を潜め、物陰に隠れ、奴等に見つからないようにやり過ごす。それ以外に方法がない。他には何も残されていない。