スズラン

 中学生のとき、お小遣いを貯めてやっと買った、初めてのラジオ・カセット・レコーダー。おまけのテープに入っていたのは、「スズラン」という曲でした。
 ロシア民謡なのですが、かなりポップなアレンジがなされていて、当初はそれと気づかなかったものです。たまたま聞いた父が、
「懐かしいな。昔、ダークダックスが歌ってたんだよ」と教えられ、そちらのアレンジも聞くようになって、いっそう好きになりました。

 曲のタイトルにある「スズラン」がどんな花か、わたしは知りませんでした。言葉の響きから、可愛らしいイメージはありました。
 図書室へ行き、植物図鑑で調べてみると、名前にたがわず可憐な花でした。
 チューリップに似た紡錘型の葉に包まれるようにして、細い茎が伸び、しなやかに弧を描いています。その先からは、小さな白いベルそっくりの花がこぼれるように咲いているのでした。
 まるで、妖精たちが丹精を込めてこしらえたカリヨンのよう。

 ロシア民謡の、どこか哀愁をおびた天真爛漫なメロディと相まって、わたしはこの「スズラン」が大好きな花の1つになりました。

 北海道を旅した際、土産物屋で「スズランの香水」というものを見かけ、思わず買ってしまいました。
 甘いけれど、いくらかツンとする香りが、想像力の助けを借りるまでもなく、「ああ、たしかにスズランだ」と思わせます。
 森の奥でひっそりと咲く、無邪気な白い花。その場にいるかのように、はっきりとしたイメージが浮かび上がってきました。

 こんなに愛らしい花ですが、実は毒草の1つとして数えられています。散歩中の犬がこれを食べ、具合を悪くするという事故も多いと聞きます。
 かなり強い毒らしく、スズランを活けておいた水を誤飲して病院に運ばれたという例もあります。
 もちろん、スズランにはこれっぽっちもの悪意はなく、その美しさが陰ることは決してありません。

 スズランにはいくつもの別名があります。
 「君影草」、「谷間の百合」、それぞれ趣こそ違いますが、この花の持つ雰囲気がよく表されています。
 「谷間の百合」の英語表記、“Liliy of the valley ”は韻が美しく、わたしのお気に入りです。

 関東では5月から6月にかけ、スズランが一斉に花を咲かせます。
 山梨県河口湖近くの芦川では、毎年「すずらんの里まつり」が開かれ、静かな森に群生するスズランを見ることができます。
 さらにひと月ほどすれば、北海道でも開花が始まります。
 礼文島・利尻島などがよく知られていますが、平取町芽生にある「すずらん群生地」が国内最大とのことです。5月の終わりから6月にかけて、「びらとりすずらん鑑賞会」が開かれるそうです。
 いつかは行ってみたいものです。