林雄司さんにエッセイの書き方を聞いてきた(「飛躍させる」「エビも謎」など)

こんにちは。ShortNoteです。
「デイリーポータルZ( https://goo.gl/XNsp7C )」「Webやぎの目( https://goo.gl/9UPPim )」「死ぬかと思った」「東京トイレマップ」をはじめとして、ネット初期からずーーーっと最前線で活躍している林雄司さんに、お話を聞いてきました。

今回は、黙々と更新されている、ほぼテキストだけのサイト「Webやぎの目」の話を中心にインタビューしています。

大テーマはずばり「書きたいことを書きながら、なおかつ多くの人を惹きつけるエッセイを書くには?」。これを中心として、いろいろな話をしていただきました。
以下、まとめます。
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● 他のところじゃなくて「Webやぎの目」に書くとき

- 林さんは、ご自身のサイト「Webやぎの目」の他に、デイリーポータルZ、Twitter、Facebookなど、さまざまな場所で積極的に更新しています。書き分けの基準は何かあるのでしょうか?
林:
Twitterは愉快なことだけを書きます。面白くて朗らかなこと。
Facebookではビジネスっぽいことも書きます。たとえば本で知った話、「CEOのの声の高さが21ヘルツ低くなると企業の規模が4億大きくなる」とか、「プレゼン前に机上に足を乗せると、脳が『俺は偉い人だ』と勘違いしてリラックスする」といったものですね。
Webやぎの目には、SNSで流れちゃうのがもったいないものを書きます。
まとまった小話を思いついたときとか。原稿を書いているときに削った部分とか。誰かと話していてゲラゲラ笑った話とか。
たとえば、先日デイリーポータルZの15周年のメルマガを書いているとき、「中2って10年経つと『御社』とか言い出す」というセンテンスを削ったんだけど、この話自体は面白いなって思って。焼きそばパンを頬張ってたヤツを10年で会社員にある仕組みがあるってすごいと膨らませて、やぎの目に書きました。
あと、この前、妻たちと「クイズ形式で話す人って嫌だよね」って話をしていたんです。「昨日の夕食、何食べたと思う?」とか「この服どこで買ったと思う?」とか。でも一番嫌なのは「先生なんで怒っているか分かる?」じゃないかって。最悪クイズですよね。仮に当てても怒られるという。これも「こんな面白い話は多くの人に広げるべきじゃないか」と思って、やぎの目に残しました。
ブログが一番自由なんじゃないかと思うんですよね。変なリプライもないし、自分のドメインだから運営から削除依頼来ることもないし、読む人も少ないし。
だから、まとまった話を、好き勝手に書いています。
- 100字くらいで済んじゃうような話はどうしていますか?
林:
流れていくともったいないなと思うものは、膨らませてやぎの目に書きます。
- どうやって膨らませるんですか?
林:
飛躍があると面白いのかなあ。いったんレイヤーをあげて、別のところに下ろす。その時に飛躍させる。ご飯に梅干しが合う、とすると、じゃあ別の炭水化物はどうなんだろう? とか。変なものを食べたときでも、Twitterだと「こういう変なものを食べた」だけになるけど、やぎの目に書くときは、似たような食べ物を何個から並べて書くかな。
たとえば、このまえ新宿にうんこおちてたことがあって、でもそれを「うんこが落ちてたー」って笑うんじゃなくて「うんこって熊みたい」だなって飛躍させる。熊もうんこも、マンガで見る分にはいいけど、本物見ると怖かったり凹んだりする。やっぱり本物は嫌だねって。本物が嫌なのはなーんだ? 熊とうんこ。そんな感じです。
- よくそんなにすぐに「たとえば」が出てきますね。
林:
何かを見るたびに、いつもずっと考えていますからね。
- デイリーポータルZとの違いは?
林:
やぎの目は、身体を動かさないことを書いているかな。思いつきだけで終わるもの。
元々やぎの目に、ずっと「こんなことしたら面白いんじゃないか」ということを書いていて、それを本当にやっちゃおうというのがデイリーポータルZです。だから今でも、文章で読むと面白いけど、実際にやったらそこまで面白くないだろうなとか、できっこないものは、やぎの目に書きますね。
たとえば、「聞いたことあるけど見たことないランド」っていうのを思いついたときがあって。入場すると、子犬を拾っている不良がいたり、「ざます」って語尾につけるおばちゃんがいたり。そういうのばかりいるランド。これは実際やるのは難しいのでやぎの目に書きました。

● 書くときに工夫していること、注意していること

- なるほど。Webやぎの目をはじめとして、エッセイやコラムを書くときに、工夫していることってありますか?
林:
最初に接続詞をいっぱい入れて書いて、あとで全部削ります。
接続詞を入れて書くと書きやすいんです。でも読むときはくどい。
あと、ネットってついつい「かもしれない」とか「可能性がある」とか「なのではないだろうか」とか書きそうになっちゃうので、なるべく使わないようにしています。特に自分のサイトだったら断言しますね「である」って書いちゃう。
堀井憲一郎の本に「文章ってどうやっても独断と偏見なので遠慮するな」という一文があるんです。そのとおりだと思います。だからせめて自分のブログでは、誰に遠慮もせず、ぼかした表現を使わないようにしていますね。
たとえば「バック・トゥ・ザ・フューチャーってみんな観たことあるけど、誰も映画館で観てない」って書くとき、これを「ほとんどの人が映画館で観てないと思う」って書くと面白くない。断言したほうが面白い。まあ案の定「僕は映画館で観ました」ってリプが来るんだけど、そりゃあいるだろうよ、でも言い切ったほうが面白いからいいやって、そういう心構えでいます。
- 逆に、書かないようにしていること、気をつけていることってありますか?
林:
「嫌だ」「嫌いだ」っていう、「悪意出発」と僕が呼んでいるものを書くときは、露骨に書かないように気をつけます。
たとえば「マジレス」。マジレスって幼稚だと思うんです。子どもってよくマジレスするじゃないですか。「これって本当はこうじゃん」って。でも大人になってもマジレスばかりで冗談が通じないのは幼い。
これをこのまま書くと単なる悪口なんで、書くとしたら「マジレス・オブ・ザ・イヤーってありますよね」とか、言い回しや(先ほど話した)飛躍で面白い方向に持って行きますね。
あと、不安を煽るようなことは書かないな。「日本は終わりだ」とか。
そういうので耳目を集めるようなことはしたくないなあ。どうせなら愉快なことで注目を浴びたいですね。
それと、ネットの話題とか、ネット論題みたいなものには乗らないようにしています。集団イジメみたいになると凄く良くないし、怖いやり取りも起きそうなので。
そもそも、「ネットで話題」のことって、「狭い」んじゃないかなあって俺は思ってるんですけどね。
いろんな人にわかってもらいたいので、ネットの話題のようなネタは避けますね。
- モヤったこととか、イラっときたことなどはどうしていますか? そういうことをネットに書いてスッキリする人も多いと思うのですが。
林:
書かないですね。人に愚痴って終わりにします。
この前タクシーから降りたとき、太もものズボンが、得体の知れないもので濡れていたんですよ。なんじゃこりゃ!? って落ち込んだんですけど、冷静に考えたら「これはつまり『災難に遭った』ってだけだな」と思えて、それで整理できました。
身内で問題が起きたときでも、いつも通りのことを書こうと努めていましたね。
- 「共感して欲しい」という気持ちはないんですか?
林:
なんというか、普段面白いことを書いているのに、不幸なことを書いちゃうと、陳腐になってダサい。「この人は本当に頭がおかしいんだな」っていう方が格好いいと思うんですよね。よくお笑い芸人が政治家になるけど、アホの坂田だけは、みんな本当にアホなんじゃないかって思ってるじゃないですか。その方が格好いい。
ペーソスとか、あるいはFacebookに賢げなことを書いちゃうとかは、たまーにやっちゃうけど、気をつけてはいます。安易に「そういうの良いですね」って肯定されると、その快感でダメになってしまう気がするんです。普段からスキップして歩いているような人だと思われる方がいい。
- いやーホント徹底していますね!
林:
この対談も「スキップしながら登場」って書いてください。

● 書いているツールや更新頻度

- ちょっといくつか具体的なことを。やぎの目の更新頻度は、何かルールがありますか?
林:
今はないんですけど、できれば毎日書きたいなと思っています。「思いついたら書く」じゃなくて、「書くぞ」とパソコンに向かって、考えて書くほうがいいかなって。考えれば面白いことは出てくるので。
- 毎日面白いことを考えたい、ということですか?
林:
うん。デイリーポータルZの企画でも、「思いついたらやります」だと前に進まないので、「明日までにやる」とか、圧力をかけますね。
- 書くときに使っているツールはありますか?
林:
ないです。パソコンを使って、ブログの管理画面で直接書きます。
- スマホで書くことはありますか?
林:
ないですね。スマホで書くと、つい長くなっちゃって、締まらないんですよね。
- スマホだと短くなるんじゃなくて長くなるんですか。面白いですね。書いた文章の推敲はしますか?
林:
結構やります。
基本的には削りますね。いらない言い回しを削ったり、接続詞を削ったり。
削って削って、で、最後にいらないところに「の」とか変な誤字が残っちゃうんですよね。
- ありますねー。あと、タイトルつけるときに気をつけていることってありますか?
林:
ないです。本当はタイトルつけたくないんですよね。タイトルがつくと、ちゃんとしちゃうから。
でも使っているブログが、タイトルを入れなきゃいけない仕様なんで、仕方なく入れています。
- ネットでは「タイトルが重要」みたいな風潮があるじゃないですか。
林:
あれねー、良くないですよね。
タイトルって、まず大前提として、自分で企画立てて記事書いた上で考えるものじゃないですか。「タイトルが大事」って言ってる人って、その大前提をやっていない人たちなんじゃないですかね。

● 書きたいことを書きながら、なおかつ多くの人を惹きつけるコツ

- さて、とうとう本題に入ります。「書きたいことを書きながら、なおかつ多くの人を惹きつけるエッセイを書くには」どうしたら良いでしょうか?
林:
自分の場合は、「これ面白いでしょ? 好きなんじゃない?」というのを言いたいんですよね。他人が今は意識すらしていないけど、言われてみれば確かにそうだよね、ということ。
たとえば、$って漢字で書くと弗なんでうけど、これ左右逆じゃないか、とか、蝶ネクタイってあるけどああいう停まり方をするのは蝶じゃなくて蛾だから蛾ネクタイが正しいんじゃないか、とか、カップヌードルの謎肉が話題だけど、エビの方も結構謎じゃないか、卵だって見たことないやつじゃないか、とか。
ベースはみんなが知っているものを、ちょっと違う視点で見る。そういうことを書きたいです。
- ベースが広い、多くの人が知っている、ということが大事なんですね。
林:
そうですね。たとえばドラマの話をすると、そのドラマを見ていない人はわからないじゃないですか。だからたとえドラマのネタを書くとしても、「このドラマにこういうシーンがありましてね」という説明をまず書きますね。それがないと不親切かな。
- 自分は好きだけど世間的にはメジャーじゃないものはどうしていまうか?
林:
書かない。そこにオチがないと、「俺はこれが好きなんだよね」だけで終わっちゃうから。
やっぱり伝わらないと面白くないですよね。みんなが知ってるとっかかりが欲しい。突っ込みどころが欲しい。元ネタを知らなくてもわかるように書きたい。で「ドヤ」ってしたい。
- それが林さんなりの「ドヤ」なんですね。
林:
「エビも謎だろ?」っていうのが俺のドヤですね。

● 読み手としての林さん

- いちユーザーとして、どんなものが読みたいですか?
林:
何の情報もないヤツが読みたいですね。今って実用的というか何か情報がある記事が支持されている気がするのですが、逆に、なんの教訓もない、ただ面白いだけの文章。そういうのが読みたいです。
- ドラマとかアニメとかは観ますか?
林:
観ないです。全然観ない。知らない。
本はよく読むのですが、小説や漫画のようなストーリーものは読まない。実用書とエッセイだけですね。
テレビもドキュメンタリーばっかり観てます。巨大な魚とかナチスの巨大建築物とか。ディスカバリーチャンネルとテレ東だけ。
- 自分が書いたものの中では、特に気に入っているものってありますか?
林:
自分のものは何でも好きなんですけど、最近だと「インスタバエ( https://goo.gl/bygUuM )」はすごい気に入っています。ダジャレだけど蝿の生態などの情報も盛り込んでるし、写真もキレイに撮れたし。

● ウェブメディアびっくりセールに向けて

- 最後に、今度の11月18日に開催される「ウェブメディアびっくりセールhttps://goo.gl/nC3Rxg )」。デイリーポータルZ主催の即売会で、ShortNoteも参加します。
どういう経緯ではじまったんですか?
林:
ウェブメディアびっくりセールでは、メディアが出店して、読者と直に会うんです。僕は読者に会うの好きなんですよね。「あれ面白かったです」とダイレクトに褒めてくれるから。この快感を他のメディアの人たちも味わったらいいんじゃないかなと思って、開くことにしました。
あと、自分たちがコミケに出して売れ残ったやつとか売り切りたいというのもあります。
- ShortNoteで「ウェブメディアびっくりセールに行って、感想を書こう!」というキャンペーン企画をやるのですが、
どんなエッセイが集まることを期待しますか?
林:
普段自分が読んでいるメディアの中の人に会うのって、面白いと思うんですよね。文章と人って、結局同じ雰囲気が出るんです。パッと見は印象が違っても、話してみると「ああ、やはり文章の通りの人だった」って。
そんな感想を持ってくれると嬉しいですね。珍しい動物でも見に来るような気持ちで楽しんでください。
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以上です。常にアウトプットを考えている、観たり聞いたり読んだりしたことでも、「たとえば」で自分ごとに落として肌になじませる。それが徹底していて、改めて林さんの凄さを感じました。
みなさまがエッセイを書くときの参考になると幸いです。