大学生時代の思い出その2:キッカケ編

 結果から言ってしまえば、新入生歓迎ライブは大成功を収めた。そうしてそれは、彼の貢献によるところがかなりの割合を占めていたように思う。彼のバンドが終わった後の歓声は明らかに他よりも大きかったし、「今のバンド良かったね」などと好意的な声もちらほらと耳に届いた。
 私もまた、彼の音楽に圧倒され魅了された人達のうちの1人だったが、しかしそれと同時に彼のことを、どこか自分とは遠いところで呼吸をしている人のように感じた。というのも、当時の私はサークル活動に対してそれほど前向きではなかった(これはまた後ほど詳しく事の経緯をご説明する)ため、音楽に対して至極真摯に向き合う彼はとても眩しくて、眩しすぎて、どこか劣等感を抱かずにはいられなかったのだ。
 バンドメンバー達に囲まれながら達成感に頬を緩ませる彼を、ステージ下の観客席からぼーっと見上げながら、きっとこの子とは大して話す機会もなく卒業するたろうなあなどとぼんやり思った。
 ライブの後は入会希望者を交えて打ち上げを行うのが毎年の恒例なので、さっさと機材を片付てしまって、いつもサークルの打ち上げのたびに利用させてもらっている駅前の居酒屋へと急ぐ。
 通されたのはいつもどおり広い座敷の宴会場。入会希望の新入生達は、なんとなく、一番入口側のテーブルにまとまって座っている。入学したばかりでお互いほぼ初対面なのだろう、知らない場所で知らない人間に囲まれて、どことなく居心地悪そうに見える。私は、仲の良い同期達と共に、新入生達からはいくらか離れた席へと腰を下ろした。私も同期達も、率先して新入生に話しかけるようなタイプでは決してない。「先輩」として褒められた行いではないなあと自分自身でも思うのだが、どちらかと言うと人見知りで、どうしても初対面の人間は苦手だった。なんて言ったって、入会して既に1週間経った彼とすら、実は未だまともに言葉を交わしていないのだから。
 そういえば彼は、と辺りを見回す。派手な金髪頭を見つけるのはそう難しくない。サークル内カーストの頂点へと君臨する先輩方(つまるところ、楽器がすこぶる上手い人達)と、なにやら楽しそうに談笑している。私が座る席と彼が座る席とはほぼ対角線の端と端に位置しているから、恐らく今日もまた会話の機会はないだろう。それを何故か少し残念に思う自分がいて、けれどもだからといって自ら進んで話しかけに行くほどではないよなあと、グラスの中のアルコールを煽って思考を打ち切った。
 飲み会も中盤に差し掛かった頃。既に良い感じに出来上がってきた同期達は、酒のテンションに任せて入会希望者の子達とコミュニケーションを図るべく、ぞろぞろと席を移動し始めた。そこに便乗することもできたが、なんとなくそんな気分にもなれなくて、気分転換がてら外の空気を吸いに行くことにした。アルコールと揚げ物で満たされた身体はニコチンを欲していたから、という理由もある、少しだけ。
 春とは言え夜はやはり肌寒い。肌を撫でる冷気が心地良くてそっと息を吐く、そして吸う。すると、ふと、煙の匂いが鼻孔をくすぐる。どうやら先客がいるようだった。上着のポケットから煙草と使い捨てライターとを取り出しながら、匂いのする方へスニーカーのつま先を向ける。
 派手な金色の髪に、鋭い双眸、ガリガリの体躯。視線の先にいたのは、彼だった。