愛の点滅

本当に長い間、青信号が点灯していた。
初夏の若々しい緑とのコントラスト。
梅雨晴れの、すぐそこまで迫った夏を彷彿とさせる空のような、そんな透き通った青。
気づいてなかったけど、そんな青が大好きだった。
青信号を私はいつまでも眺めていた。
横断歩道なんて、渡らなくてもいい。そんな風に考えていた。


やがて、青信号は点滅する。ゆっくり、ゆっくりと。
慌てて、私は横断歩道を渡ろうとする。
本当は、その道を横断した先に行きたかったパン屋さんがあったんだ。
人気のメロンパンを買って、故郷で暮らす両親と友人に土産として渡す約束があったんだ。
そんなことをやっと思い出して、急いで渡ろうとする。

一歩足を前に出したところで、信号は赤になった。
若々しい緑と空の青の間に、歪な赤色が差し込まれる。
美しかったはずの緑と青が一瞬にして赤と混じり、黄色と紫に変わったような気がした。

そして。
もうあなたにこちらに来る資格はないよ。
そう告げるかのように、多くの自動車が発進し始めて。
パン屋は、自動車の波に飲まれて見えなくなった。








あなたが私のことを大好きになって。
私たちは付き合い始めた。追いかけられる立場として、新しい恋が始まった。
ずっと安心しきっていた。「この人は、ずっと私のことが好きなんだろうなぁ」なんて。
そんな永遠の愛が存在しないことなんてわかってたはずなのに。
私はバカだったのだ。安心していた。あなたの真っすぐな愛を受け、私は安心してしまった。

だから、「愛してる」「綺麗だよ」ってクサい言葉の一つも言えなかった。
口を開けば、彼女のそばかすをからかったり、フリルのついた少し子供っぽいファッションにケチをつけたり。
幼い容姿だったのに存外低い声のことを馬鹿にしたこともあったっけ。
そうやってひねくれた愛を、彼女には与え続けた。



彼女が、点滅し始める。
ひねくれた私に愛想をつかし、他に好きな人が出来たそうだ。
愚鈍だけど、真っすぐに愛情を彼女に注げる人。
私にはできなかったことが、彼には出来るのだろうか。
今更になって、伝えなきゃいけなかったことが言葉となって零れてくる。
愛している、ずっと一緒に居たい、好きだ、好きだ、好きだ。

そんなことを今更言ったって、遅いことはずっと前に学んだはずだった。
それでも、そうやって叫び続けることしか出来なかったんだ。




そして、信号は赤に変わった。

今になって思う。
そばかすがあったって、ファッションに気を遣ったって。
いつだって君は君だった。
そばかすが目立っても、汚れたTシャツと履き慣れたジーパンを身に付けていたって。
君は君のままで、可愛らしいんだ。
そんなことを伝えたかったのかもしれない。
何よりも、君の声が好きだったんだ。




そんなことを今更になって思う。
いくらそんな風に考えても、信号は赤のままだった。
こんな私の感情ですら、尾崎世界観は曲にして歌ってしまう。
私のこんな境遇も、ありふれたものなのだろうか。