19.04.17

 男女4人の大学生くらいの集団が前を歩いていた。話し声がやや大きく、聞こうとせずとも話が耳に入ってくる。どうやらラッシュ時の人身事故についてのようだった。「迷惑だから止めてほしい」とか「死ぬ力があるなら、生きてみろ」とのこと。言いたいことはわかる。でも、私は迷惑とかは関係無くただ生きていて欲しいと思う。そして、本当に死にたくなるほど辛いのなら、迷惑を多少かけても仕方ないと思う。それは、復讐としての自殺だ。電車であれば、賠償金は億に達すると見たことがある。ネットで見ただけのはずなので、事実かわからないけれど。それだけの金額影響を一瞬で発生させることが出来る。そこまで追い込んだ人達に罪悪感を与えることが出来る。大抵は、忘れられて世間は通常通り回っていくのだけど。繰り返しになるが、まずは生きて欲しいと思っている。これも無責任な話だけれど。

 昨日からの続き。ついにソープを予約した私は、当日、上野駅に来ていた。予約時に指示をされた通り、12:00に改めて電話を掛ける。前回と同じ男なのか、それとも全員同じような声と話し方なのか、早口で聞き取り辛い声が答える。13:00から△△さんで予約している者だと伝える。

「確認のお電話ありがとうございます。御送迎ですが、入谷口を出て頂いてすぐそばにファーストフード店があります。12:30にその店の前に、足立 ●●-●●の黒い車が来ますので、そちらに○○の客だとお伝えください」

 ナンバーをメモに控えることすら、とても恥ずかしいことのように思えて、必死に記憶する。入谷口を利用した記憶はそうなかったが、指定されたファーストフード店は記憶にあった。理解した旨を伝え、電話を切る。

 送迎車が来るまで、30分あったので、その指定されたファーストフード店に入った。朝から何も食べていない昼時だったが、緊張のせいか全く食欲が湧かず、ソフトドリンクだけ注文した。それにも余り口を付けず、ガムを噛んでいた。色々サイトを調べていて、当たり前のことだが、口臭は嫌われるとしつこく書かれていたせいだ。彼女とのファーストキスも思い出せば、臭いの伴うキスは、確かに苦しい。まして、それが気持ちの籠らないものであるならば、せめて不快感はなるべく減らしたかった。また、爪もばっちり切った。様々な部分に触れることが予期出来ていたので、彼女と付き合っていたときよりも、短くした。

 時間の進みは遅かった。本を持ってきていたが、読む気は起きず、ソープのホームページを見て気持ちを高めようにもファーストフード店の込み合った店内ではその勇気も出ないで、ゲームとかしていたかもしれない。

 堪え切れなくなって、12:25に店を出た。辺りを見回すが、黒い車は沢山あっても該当のナンバーは見当たらない。店を出て、スマホを見るでもなく辺りをキョロキョロとしている姿は、慣れないソープの送迎を待っていますよ、と周囲に見透かされてしまいそうで、恥ずかしかった。それどころか周りにいる冴えない風体の男を見ると、同じ店に行くのでは、と言う気持ちになった。必死に仲間を増やそうとしていた。

 5分間待たされ、指定された時間ぴったりに、路地の方から黒い車がやってきた。確かに、指示されたナンバーの車だ。ファーストフード店から少し離れたところで停車して運転手が降りてきたので、近くへ行って、予約をしたものだと伝える。声が震えていた、気がする。

「お待たせ致しました。後ろの座席にお乗りください」

 運転手は普通のおじさんに見えた。こういった経験を一切持っていなかった私は、風俗と言えばヤクザであり、ヤクザであれば強面のチンピラのイメージしかなかった。この人がどのような経緯でこの仕事についているのか、気になった。やはり、ヤクザなのか。それとも全く関係の無い、堅気でありながら、風俗業に勤めているのか、そもそも運転手は風俗業扱いになるのだろうか、等。

 後部座席に乗る。同乗者がいたら嫌だな、と考えていたが、幸いにもこの車は私一人だった。今まで馴染んできた上野-秋葉原方面とは逆方向へ、車は滑り出す。運転手は寡黙だった。ラジオが車内には流れていたが、全く頭には入らなかった。万が一、ここで事故死をしたら、両親にも全てばれてしまうのだろうな、そうなった時には何を思うだろうか、と性欲も萎えることばかり考えていた。実際、私は予約の電話を切った時にはもう後悔を始めていた気がする。勿論、期待とときめきはあった。だが、本当は行きたくなかったかもしれない。ちゃんと恋愛の末に、行為を果たしたかった。だが、別れたことを消化し、意味あることとして昇華するために、ふしだらになる必要があった、とこれも今更の下らない言葉遊びだ。

 15分くらい乗っていた。吉原のイメージを全く持っていなかった私は、どこか歌舞伎町的なものを想像していたが、昼間だったせいもあり、実際にはずっと地味だった。確かに風俗店らしい看板は続けて並んでいて、店の前には黒服が立っているのだが、近くにはマンションもあり、日常の感じがした。駐車場に入る。店は車が停められない狭い路地のほうにあり、駐車場からの道程を運転手は説明すると、またすぐに出て行った。道程、といっても大したものではない、向こうに見える建物がそうです、というくらいだ。店の真ん前で降ろされ、強制的に流れ作業で店内へ行くかと思っていたのに、最後まで1人で歩かなければならない。まだ、逃げることは出来た。だが、私はそのまま店へと進んでいく。

 細かい話は明日以降に続ける。

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