きみはイケメン外国人執事に「プリンセス」と呼ばれながらお姫様抱っこされたことがあるか。

渋谷の駅前交差点を越えて、北西へ。若者と喧騒の支配する路地を歩くこと十分程。
東急ハンズ渋谷店を向かいに臨む小さなビルの中に、その異空間は存在していました。

渋谷の外国人執事喫茶「バトラーズカフェ」へ行って参りました。
http://www.butlerscafe.com/

出入口こそ、コンクリート打ちっぱなしの飾り気のないビルの五階といった趣きですが、一歩中へ入ると、そこはまさに、異空間。
西洋風のインテリアで整えられた店内と、ズラリと並んだイケメン外国人執事たちの姿は、安っぽさとリアリティの混在する、カオスの箱庭。
ゴージャスに飾り立てようとすればするほどチープで、それゆえに、あぁ、ここは虚構の世界、わたしは迷い込んでしまった虚構のプリンセスなのだわ……という、倒錯的な陶酔へと誘ってくれます。

このお店を訪れるすべての女性は、「プリンセス」です。
執事たちは、ことあるごとに「My Princess?」と問いかけながら会話を進めてくれます。
会話の第一声が必ず「My Princess?」。
そう、わたしはあなたの、プリンセス……。

プリンセスたるもの、ルールを守って、気品ある振る舞いをしなくてはなりません。
というわけで、席に着くと、まずは日本人執事による「プリンセスの心得」の説明から始まります。
写真撮影はここまでならOK、店内で席を立つ際には必ずベルを鳴らして執事をお呼び下さい、等々。
特に印象的だったのが、こちらの説明でした。

「ベルを鳴らした後、どちらのプリンセスがお呼びになったのか、執事たちが把握するまで数秒間、ベルを下ろさずにそのままでいらしてください。他にもたくさん、プリンセスがいらっしゃいますので……」

他にもたくさん! プリンセスが!!

このお店は、女性が楽しく英会話を楽しめるお店というコンセプトでもあるらしく、有名女性誌の英会話特集で紹介されたこともあるそうです。
実際、店中の執事たちが、入れ替わり立ち代わり、おしゃべりをしに席を訪れてくれます。
電子辞書を貸してもらったり、英会話レッスンをつけてもらったりすることもできるそう。
日本人に聞き取りやすい発音&スピードの英語で話してくれるので、英語は大学受験以来ごぶさたな私でも、意外と聞き取ることができます。

執事「(入店時に記入したアンケートを見ながら)"今日の気分は?" という質問に、あなたは "Nervous" と答えていらっしゃいますね。ナーバスなのですか?」
私「そうなの、緊張しちゃって……」
執事「それはいけません! ここはプリンセスにハッピーな気持ちになってもらうための場所です。あなたがハッピーになってくださるように、僕も頑張ります!」

終始、こんな感じです。
(※会話はすべて、英語で行われたものを、それっぽく日本語に訳しています)

会話の中では、ポーランド出身の執事、マルコの出身地を当てるのに苦労しました。

マルコ「ショパンの出身地と同じですよ!」

……嗚呼、そうですよね。プリンセスたるもの、ショパンの出身地といわれれば、「ポーランドね!」と即答できるくらいの教養は、持っていないと、いけませんよね……。
なんちゃってプリンセスでごめんなさい。
音楽といえば、Japanese Rock Musicばかり聴いている子で、ごめんなさい……。

執事によるメニューの説明も、すべて英語です。恐ろしいです。
とはいえ、メニュー表には日本語の補足説明も書いてありますし、執事たちは日本語もちゃんと理解しているようなので、日本語で質問すれば、わかりやすい英語or日本語まじりの英語で答えてくれます。
ここは一安心。
では、さっそく、オーダーしてみます。
最初に教えられた「プリンセスの心得」に従い、チリリリーン♪とベルを鳴らすと……。
なんと、その瞬間、店中の執事たちが、一斉にピタリと動きを止めたかと思うと……声を揃えて、高らかに返答を!

「イエス、マーイ・プリンセス!」

……な、なんですって!?

すべての執事たちが、その時お話ししていた他のプリンセスとの会話もすべて止めて、一斉に答えてくれるのです。イエス、マーイ・プリンセス!
まさに圧巻です。すごい。これはすごい……!
ちなみに、「マーイ」と伸ばしているのは、「イエス」の段階ではバラバラの執事たちの声を、「マーイ」で調整し、「プリンセス!」でビシっと揃えるための工夫のようです。

今回、同行してくれた友人A嬢は、ケーキと紅茶をオーダー。
紅茶にキャラメルロイヤルミルクティーを選ぶと、執事が「Good choice, my princess……!」と褒めてくれました。そうなのか、Good choiceなのか……。
一方のわたしは、パニーニのランチセットをオーダー。
しばらくするとお料理が運ばれてきますが、焦らし上手な執事たちは、すぐには給仕してくれません。なんと、わたしたちにサプライズがあるというではないですか。

執事「五秒間、数えるから、眼を閉じて!」

う、うわぁ……なにそれ何が起こるの……。
と、ビクビクしつつも、言うとおりにしてみます。
すぐに、執事によるカウントダウンが始まりました。

「5……4……3……2……1……open your eyes!」

瞳を開くと、テーブルの上には、余白部分にチョコレートで、薔薇のイラストと、プリンセスの名前が描かれた、なんとも華やかなお料理皿が……!

なにこれちょうすてき!

さらに、執事が懐からティアラを取り出し、頭に載せてくれます。
「懐からティアラを取り出す執事」というビジュアルの破壊力がすごい。
しかも、ティアラをかぶらないと食事させてもらえないようです。なんという羞恥プレイでしょうか。

その後、「Good choice,my princess!」とお褒めに預かったキャラメルミルクティーが運ばれてきました。
執事、ハート型のカップに注ぎ入れながら、「見てください、なんていい香り……いい色……あなたは素晴らしいお茶を選ばれましたね!」と再びベタ褒めです。

食事は、意外と(というと失礼ですが)おいしかったです。
冷凍をレンジでチンではなく、店の奥のキッチン(日本人の女性スタッフが複数いらっしゃいました)で、きちんと手作りしてくれていました。
うっすらキツネ色に焼かれたパニーニのサクサク感が絶妙です。

しかし、食べている間も、ソファ席入り口の天蓋をのれんのように持ち上げながら、「マイ・プリンセス? お味はいかが?」なんて具合に、執事たちが会話をふっかけてくるので、気が抜けません。
しかし、ちょうどモグモグしていて、お話ししづらいタイミングだったときには、「冷めないうちにお召し上がりくださいね!」などと言って、サッと会話を引き上げてくれるので、安心です。さすがは執事です。

そして、お食事の後には、お待ちかね、お姫様だっこ写真撮影タイム!

執事一名と腕を組むか、あるいはお姫様だっこをしてもらって、一枚1,000円で撮影ができます。
執事の人数を増やして、「両手に花」状態にして撮影することも可能。
お値段は、執事の人数に応じて上がるそうです。つまり、執事二人なら、2,000円。

好きな執事を指名できるというので、わたしは、ショパンと同じポーランド出身の、マルコをチョイス。
笑顔で現れたマルコ、「あなたのような美しいプリンセスと写真をご一緒できるなんて、光栄です!」と語りながらわたしの手を取り、エスコートしてくれます。
執事の首に両手を回し、落ちないようにしっかり掴まるよう指示されつつ、撮影に挑みます。
プリンセスを軽々と持ち上げている体を笑顔で装いつつも、重みを必死に支える腕がプルプルしている執事に、涙を禁じ得ません。
写真は、お店所有のデジカメで撮影します。
すぐにプリントアウトしてお渡しいたしますので、しばしお待ちください、とのこと。

写真を待っている間に、執事にお手洗いに連れて行っていただきます。
プリンセスなので、お手洗いにいくにも、ベルを鳴らして「イエス、マーイ・プリンセス!」を経たのち、執事にエスコートされなければならないのです。羞恥プレイです。
「あなたをエスコートできるなんて幸せです!」といいながら、うやうやしく手をとってお手洗いまで連れて行ってくれる執事。羞恥プレイです。

そして、このお手洗いが、すごかったです。
綿棒やコットンなどは勿論、ハンドクリームなど各種化粧品の試供品、使用自由の生理用ナプキンまで、おおよそ想定できる女性向けアメニティがごっそり揃っています。
化粧品の試供品は、どこかと提携しているらしく、販売元を紹介するカードも設置。
すごいすごい。あれもこれも使ってみたい。これはいい! と大満足でお手洗いから出ると、なんと、先ほどエスコートしてくれた執事が、そこで控えてくれていました。
びっくりして、思わず後ずさりしてしまうわたくし。

あ、あなた、ずっと、そこで待っていてくださったのですか……。

再び、手を取られて、エスコートされつつ、席へ。
洗ったばかりで湿っている手を取られるのが、なんとも恥ずかしい。
先ほどのお姫様だっこよりも、お手洗いの行き帰りをエスコートされるほうが恥ずかしい。
店中に「みなさーん、こいつ、今、トイレ行ってきましたよー」と宣伝されているようで恥ずかしい。
恥ずかしい……恥ずかしい……嗚呼、羞恥プレイです……。

恥ずかしさに頭を抱えながら席に戻ると、先ほどのお姫様抱っこ写真が出来上がっています。
しかも、写真の裏側には、執事からの手書きのメッセージが!

My Dear Princess.
Thank you very much for this picture.
You look beautiful!
I hope to see you again soon.
Your Butler Marco(ハート)(ハート)(ハート)

最後のハートマーク三連続の破壊力。
マルコはわたしの執事ですか、そうですか……。

二時間に渡る羞恥プレイの嵐で、すっかり恥辱にまみれてしまったわたしたち。
席でお会計を済ませた後、執事がチリリーン♪と鳴らしてくれるお見送りのベルを聞きながら、ご退席……いえ、ご出発です。
もちろん、わたしたちがお店の外のエレベーターに乗るまで、執事たちはしっかりお見送りです。
エレベーターの扉が閉まるまで、ビシッとお辞儀をして、見送ってくださいました。

そんな、虚構の執事喫茶、バトラーズカフェ。
めくるめくプリンセス体験(という名の羞恥プレイ)を、どっぷりと楽しめるお店でした。
プリンセスとしてちやほやされながら恥ずかしい思いをさせられるという、高度なプレイを楽しめるこのお店。
ご興味のある方は是非、実際に足をお運びください。


外国人執事喫茶バトラーズカフェ
http://www.butlerscafe.com/


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……と、以上の文章は、2011年に書いたものを、微修正したものでした。

あれから4年が経ちますが、その後もわたくしは、何度もこのお店を訪れておりまして、一年ほど前に「帰宅」した際も、だいたい同じような感じでした。
ポイントカードがあるので、前回の「ご帰宅」の日時がわかるのですが、あまり長く間が空いてしまっていると、

「プリンセス、一年ぶりのご帰宅ですね。執事一同、大変寂しく思っておりましたよ……?」

と、悲しげにエクスキューズされたりします。
たまりません。
たまりませんよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

また一年ほど経ってしまっているので、そろそろ、再度「帰宅」したいと思っています。
次はどんな言葉で寂しがってくれるだろう(ワクワク)。