山奥の学校(14)~遭難!?ほぼ雪の八甲田

結婚して大阪で暮らすようになってから、山に向かう出勤日は大阪から美山までノンストップでひたすら車を走らせて通勤した。片道の走行距離は110kmくらいはあった。春夏秋はトラック野郎の星桃次郎(菅原文太)よろしく、高槻と亀岡を結ぶ細い山道を気合いで走り抜け、保津川沿いをひた走り、2時間半くらいで着くのだが、冬は積雪のため3時間半はかかるため、朝4時半に家を出て、京都市内を迂回していた。
ある日、さすがに朝が辛いので、夜に出発して、ゆっくりと暖房の効いた職場の自室で朝を迎えようと思い、夜の9時過ぎに家を出た。途中までは順調に走っていたが、美山町に入ってから様子が一変した。とにかく空から降りしきる雪が大きい。ワイパーをフルに動かしても前が見えない。雨と違って白い塊の雪の手強さを思い知る。すると予想外のことが起こった。
車が前に進まなくなったのだ。いくらアクセルをふかしても前に進めない。おかしいと思い、車外に出て見てみると、車の前に大きな雪の山が。そう、降り積もる雪があまりにフカフカのため、バンパーで押し退けられた雪がそのままバンパーの前に貯まり、軽自動車のパワーではかなわないくらいの山になっていたのだ。
あわてて犬のように手で雪をかき散らし、再度前進。しかし5分とたたないうちにまたストップ。また車外に出て犬のように手で雪をかき散らし、再度前進。しかし5分とたたないうちに…  こんなことを繰り返して埒が開かないと思って後を見やると…  いま走ってきたタイヤの轍が跡形もなく消えている。白い雪に背筋が凍る恐怖を感じた。思わず口ずさんだ。「天は我々を見放した」。まさに八甲田山の世界。春夏秋なら、あと5分くらいかっ飛ばせば到達する所までは来ていたが、このまま前進するか、ここにとどまるか、退却するかの選択に迫られた。しかも低速走行のためガソリンを浪費したため、残量はE(空っぽ)!ほとんど残っていない!このまま前進して途中で燃料切れになると本当に死活問題になる。ここにとどまって朝を迎え、雪がおさまってから再出発しようと決めた。
ガソリンとバッテリーを温存するため、ライトを消してエンジンも切った。真っ暗…。手元も見えない。当たり前。街灯もない山道だから当然。しんしんと雪が降る、手元も見えない漆黒の闇に、さらに恐怖を感じた。車体は白だから、このまま朝を迎えたら、たぶん雪だるまになってしまい、除雪車に雪もろとも谷川に突き落とされるかもしれない。もう他に選択肢はない。根性で街灯のある集落まで戻るしかない。少なくとも集落の中なら谷川に突き落とされることはない。車を180度反転させ、また手で雪をかきかきしながら来た道を戻った。
少し開けた、よろず屋や診療所のある「中」という集落にたどり着き、自動販売機の明かりを見たらこの世に生きて生還した実感がわいてきた。ここでエンジンを切り、コートにくるまり、雪の中、朝まで眠りについた。
翌朝7時になって、集落のガソリンスタンドの店長に、雪と氷にまとわりつかれた車から「救出」され、無事に給油することができたのだった。