スズメの恩返し

カムイユカラと昔話
(萱野 茂 著/ 小学館)より
私は天上の神の国で姉に育てられていたアマメチカッポ(スズメの事 アマム=穀物 エ=食べる チカッポ=小鳥 )でした。
友達はアイヌの国に行って、穀物を大きな袋に持って帰ってきます。
私は姉に
「友達と一緒にアイヌの国に行きたい」と言うと、
姉は「私たちはアイヌの国に行けない血統だ」
と言って許してくれなかった。
ある日、私は姉の留守に、アイヌの国に行く友達に
「一緒に連れて行ってください」
と言ってついて行きました。
十勝川のほとりのコタン(村)の村長の家で、大勢の娘たちが、たくさんの臼を並べて、歌を歌いながら、ヒエや粟をついておりました。お祝い事でもあるのでしょう。
友達は、臼の周りに群がり、先を争って穀物を拾い集めています。一人の女が、
「どこから来たのか、よくも人間を怖がりもせず、うるさいものよ」
と、私たちを追い払おうとしました。すると、村長の娘が出て来て、
「こんな小鳥たちが、ヒエやアワを食べたところで知れたものでしょう」
そう言って臼の中から穀物をすくって、少し離れた所にぱっとまき、
「さあさあ、たくさんお食べなさい」
と言ってくれました。私たちは心から感謝して、お腹いっぱい食べ、袋にも穀物をいっぱい詰める事ができました。
帰ってきた姉は、穀物がたくさん入っている袋を見て、
「これはいったいどうしたの」
と聞いたので私は
「姉さんの留守に十勝川のコタンに友達と行き、そこの村長の娘にたくさんの穀物を頂きました」と聞かせました。姉は
「ありがたい事だ。あなたは神なので、その精神のよい娘を守ってあげなさい」
それから月日が経った頃、あの優しかった娘が死んだ事を知りました。
私は神の力で娘の死んだ原因を探っていると、雲が大地に突き刺さるよりももっと遠くにいるトゥムンチカムイ・キムンアイヌ(山の男)という化け物が、娘に惚れてその魂を持って行った事を知りました。
私は大急ぎで化け物の家に行き、家の中に入って化け物の肩に止まり、右へ左へ移りながら、歌を歌い、踊って見せると、化け物は大笑いし、その拍子に娘の魂が転げ落ちました。私は素早く娘の魂を拾って口の中に入れ、神の力で化け物の家を踏み潰すと、大地が二つに割れ、化け物が家と共に奈落の底に落ちて行きました。
私は十勝川のほとりのコタンに急ぎ、村長の家の窓に止まりました。人々は
「どこから来た小鳥だ。よくもこんなに嘆き悲しんでいる家に止まるものだ」
と悪口を言い出しました。村長は
「ひょっとすると神様の化身かもしれない。
怒るものではない」と言いました。
私は右へ左へ歌い踊り、娘の遺体の上にのりうつった。すると人々はまた私に悪態をついた。村長は
「娘を助けに来てくれたのかもしれない。
悪く言うものではない」と言いました。
私は歌を歌いながら、娘の魂を身体の隅々に擦り付けました。娘はついに生き返りました。私はそれを見届けて、さっと窓から出て行った。
何日か後、私の家にキケウシパスイ(捧酒箸)
の乗った大きな杯が届けられました。捧酒箸は
「私は十勝川のほとりのコタンの村長から、頼まれて、娘を助けた神の所に酒を届けに来た者です。」と言いました。姉は
「違います。私たちは人助けはしていません」
といいましたので、私は訳を話しました。
姉は
「妹がいろいろ良い事をしてくれるおかげで」
と丁寧にオンカミ(礼拝)しながら杯を受け取りました。姉は杯の酒を大きな酒桶に移し、大量の酒を醸しました。そして、神々を大勢招いて宴会を開き、私のした事を話しました。神々は上機嫌で私を褒めそやし、歌い踊りました。それから、私達スズメは自由にアイヌね国に出入りできる様になり、ヒエや粟など穀物を食べる事を許されました。
昔、アイヌの子供はスズメが死ぬと、ヒエを一掴み祭壇の左に置き、スズメの頭を最初は手前に安置します。
「このヒエを持って帰るとあなたの父神と母神が喜んでくれるでしょう。」と祈り、祈りが終わると頭を神の国の方角に向けて、神送りの儀式をします。
アイヌの人々は狩の時に狩った動物には神送り(イヨマンテ)の儀式を行いました。
スズメのノートを見つけたので、私の好きなアイヌの昔話を紹介しました。