些細なことでMさんを泣かせてしまっ... by まいこ | ShortNote

些細なことでMさんを泣かせてしまって、わたしは途方に暮れた。
いくら人の気持ちがわからないからって、これは酷過ぎる。結局おれのことなんかどうでもいいんやろ。おれがどんな気持ちだったかなんて、どうでもいいんやろ。
※わたしは人の気持ちがわからない無神経な人間として周囲に認知され、ある程度の言動を許容されている。
普通に歩けばコンパスの長さが違うため、わたしは彼の背中を追う恰好になる。些細なことではあるが、彼の気持ちを考えれば、Mさんの主張は尤もなものだった。特に弁明するべきこともないとき、訴えを聞く側は一体どうすればいいんだろう。不用意に奥様を怒らせてしまった男性陣の、いたたまれない気持ちがわかる。このような場合は、とりあえず相手の怒りを一通り吐き出してもらうべきなのだ、ということを村上春樹が書いていた気がする。それでわたしはただただ黙ってMさんがいかに傷ついたかということを聞いていた。
もし恋人同士なら、ぎゅっとハグしてごめんね、と言えば誤魔化されるのだろうなあ、と思ったりもする。誤魔化し、というのは言葉が悪い。相手を蔑ろにしたことが問題となっている場合、細かい言い訳を重ねるよりも、愛情があるということを態度で示す方が適切なのだと思う。しかしこれは、ダメ男の発想である。
吐き出している間、Mさんはわたしの目を一切見なかった。わたしがずっと黙っていたら、言うべきことがなくなったMさんはようやく振り返った。不満を訴える眼差し。文句を言うということは、根底にはわたしへの信頼があるのだと思う。Mさんだって本当はわたしの言い訳を求めている。納得できる理由を聞きたがっている。しかしまず目が合わないことには、相手の話を聞こうという土台がなければ、何を話しても意味がない。
この件に関してわたしは完全に非を認めるし誠意を持って謝ったつもりではあるが、その一方で、恋愛脳ってめんどくさいなあ、とも思っている。もしMさんの気持ちが充足していたなら、彼もここまで傷つかなかっただろうとわたしは思う。Mさんは、めんどくさくならないように自分を変えると言うが、そんなに無理をする必要があるのだろうか。いつかしんどくなるだけではないだろうか。
Mさんが苦情を申し立てているとき、先に歩く彼の後ろ姿を見ながら、この人はもう振り返らないのかもしれない、とわたしは思った。もうわたしと目を合わせないのかもしれない。それは寂しくて心が痛む想像だった。でも、そうならないために自分を変えようとは、わたしには思えなかった。それはもうわたしではないのだ。