「決着」


分かれの朝。
彼女は私立の人気女子高へ。 そして僕は公立の高校へ。

1年間純粋に思い続けて、結局卒業まで打ち明けることもなく、
せめて最後に何か伝えたくて、彼女の家に向かう。
左手には前日デパートで買った“思いの丈”のプレゼント。

 
その途中A君と道でバッタリ遭った。
彼は生まれついてスター資質をもった中学校の人気者です。

 A「ハーイ 何処か行くの?」

 僕「Kさんの家にさよならを言いに……」 

 A「あっ、それやったら俺も一緒に行くわ」 

それでこの数日間の私の計画や、積もりに積もったテンションは崩れた。


彼女の家に着く。
呼び鈴を押すとすぐにKさんが現れた。
先にAが声をかける。

 A「またこれからも同窓会とかで楽しくやろうな!」 

 僕「そうしようね」 

 K「うん いつまでも友達でいてね」 

 A「もちろん! それとこれは記念に……」 

そう言って私の抱えていたKさんへのプレゼントを勝手に彼女に渡した。
 
 K「え? これを私に? ありがとう……」
Aの顔を見ながら礼を言った。

「いいや二人から」というAの言葉は、Kさんの耳には届いていない。
僕の心も、僕からのプレゼントも、Kさんには届かなかった。


失恋とは言い難い。
その日チャレンジする気があったとは言えない。
試合に出る前に、すでに終了してしまったのだから。

 

  💘 

2年後。 高等学校演劇連盟によるコンクール。
Aも私もそれぞれ別の高校で、演劇部のキャプテンでした。

私のほうは入部時にはたった3人で廃部寸前でしたが、
2年後には文科系クラブでは吹奏楽部に次ぐ、中心的クラブになっていました。

Aの演劇部は府下でも毎年話題をさらう超有名クラブ。
そのクラブの先頭に立つ彼の後ろには校名が書かれた団扇やノボリを持った部員たちが、
声をあげてAを盛り上げていた。 

三日間で繰り広げられる発表会は、その登場時間によって勝敗の行方が
左右されます。
その当時は前年度優勝校が優先的に発表日と時間を決められる決まりになっていて、
Aの演劇部は2年連続優勝しており、最終日の最終演目にエントリーしました。

他の学校は高校生で運営される、演劇協会で話し合いによって決めます。

その頃はAと私が協会を2分する派閥でしたから、
私は他の学校の希望を優先的に配置したため、
クラブの出番は最も一般客の少ない金曜日の午前中になりました。

 

このコンクールには優勝と準優勝、優秀賞2校の他に、
一般客の人気投票による特別賞もあります。
前年度まで3人程度の弱小クラブで入賞など縁遠かった私のクラブにとって、
適当に見逃されてしまう審査員の評価は期待できません。

だから狙うのは、例え来場者が少ない時間とはいえ、
一般客の人気投票による数票を目標にします。 

 (少しでも多くの票が入りますように……)

 

府下全演劇部の公演も終了に近づき、Aの高校が最後の演目に入りました。
人気校だけに会館は聴衆で満員となり、割れるような拍手と共に幕が下ります。

そして優勝校の発表。

優秀校、準優勝までAの高校の名は呼ばれていません。
そして栄光のコンクール優勝校は...... 
「京都市立○○高等学校演劇部 代表キャプテン Aさん」
彼の名が呼ばれました。

3年連続 圧倒的な指示で見事優勝しました。
 

そしてこのコンクールの真の優勝校が決まる時間です。
一般客による「もう一度見たい高校」ナンバー1の発表です。
A君のY校がW受賞することは誰もが疑っていません。
ところが、彼のY校は2位に止まりました。 

「一般客の皆さんが選んだ『もう一度見たい高校』の優勝は......」 

   ( まさかね…… )


「京都府立〇〇高校 代表キャプテン クレールさん」 

優勝でした。

部員たちが悲鳴のような歓声を上げます。
会場内はざわめき、驚きの拍手が鳴り響きました。
 
そして壇上には先に呼ばれて立ちすくむAが、こぶしを握り締めていました。
 


あの日、Kに渡すはずだったプレゼントのリベンジを
その日、満員の会場の中で果たすことになったのです。
横取りされたものは、もう記憶の奥にあります。
横取りしたものは、今も忘れません。