お姫様の値段

Kさんは大阪の某私大で英文科のゼミをもつ教授である。

私が中学生の頃知り合った彼はそこの大学生で、結構有名な同人誌のスターであった。
人柄はカチカチの学級派で仲間同士の会話は、左脳でこね繰り返してから言葉にするタイプであったが、同人誌における彼の作品は百万の花を散りばめたような文体で洒落にも富み、エロティックでさえあった。

実際の彼は女性に対してかなり奥手で右脳が左脳の邪魔でもしていたのだろう。

その彼が准教授になった頃、若くてお姫様のような女と結婚した。
彼が32歳でお姫様は24歳であった。
結婚以前に訪ねた際はいつも白いワンピースにエメラルドが鈍く光るブレスレットだけをつけて、ブルーマウンテンやトラジャーなどのストレートコーヒーを出してくれていた。
結婚後は郊外に140坪のマンションを買い夢の新婚生活を送ったと想像する。
訪ねた折りには5年後もう少し広い間取りに引っ越す予定だと鼻息荒く未来図を広げてみせ、この白いワンピースのお姫様に晩御飯の催促をして見せた。
お姫様ご自慢の天ぷらはまるで和食料亭の1品のような出来栄えで、今ならインスタにあげても信じてもらえないほどのお見事な代物であったけれど、よくある他人からするとチョッと気味悪さを抱く手造り感が全くない。
何故ならそれ以外の惣菜はデパートの味がしてお姫様の手作り感がなかったのである。
奥さんの料理ではなかった。意地悪かな?

訪ねた日がたまたま彼女の誕生日だったのでケーキを頂き、トラジャーのストレートを飲み干した頃、華やぐ幸せの一瞬を共有させてやろうとKさんからリボンが綺麗に掛けられたプレゼントがお姫様に渡された。
それまで見せたことのないようなまばゆい笑顔。
下世話な言い方だがその顔に映る処女性は稀有にも見え、
この女の値段に等しいことを知る。

得意気に映るKの顔も納得せざるを得ない。

二人でKさんの書斎でタバコを吸う。
お互いかなりのヘビーで以前は喫茶店に入るとすぐ灰皿が山盛りになったものだ。
でもこのお姫様の暮らす140坪のお城の中ではタバコはゴキブリに等しく嫌われている。
従って書斎以外ほかの部屋では吸ってはならないのだ。
コーヒーの合間も、食事の前後も、何度も二人でゴキブリに等しいセブンスターを握り、書斎へ飛び込んだ。

便所は座ってやらされた。
そういえばセンターのリビングは何一つ散らかったものは無く大学からKさんが持ち帰った採点のためテスト用紙も、書斎と呼ばれるたった3畳ほどの狭い部屋に積み重ねられていた。

 32歳、新進気鋭、大学一の教授候補であったKさん。
新築のマンションを購入し、収入は他大学のテストバイトを含めかなりのもので、
順風満帆の半生を送ったことになる。
今ではきっと違った咆哮を上げるようになっただろう昔のお姫様に従うべく、
K教授は今でも毎晩あの押入れの様な書斎に入り、
資料に埋まりながら、
セブンスターを今夜もふかし続けていることだろう。