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ついに職場でやることがなくなった。与えられた量の仕事はこなしてきたがそれは長い作文を一定期間内に終わらせるようなものだからテキトーにさっさとやるんじゃなくて濃度が高くて誰もが納得するものを書き上げなければいけなかったんだよ、と友人には言われた。それを聞いて、そうか、俺があんまりテキパキ仕上げてしまう有能だから常人が一月かかる量を2,3日でこなしちゃってしまってたのか〜俺ってばホントに有能だ〜まったく俺は俺であってよかったよマジで、とか一瞬思ってしまったけどこれは違う。俺に”任せられる”仕事がないのだ。多分。
一応バイトだから社内の機密事項だったりみたいなファイルの扱いには制限があって、バイトは押しちゃいけないハンコとかもあって、もっというと無能に任せてめちゃくちゃになっては困るような案件とかもあって、要は俺なんかにはとても任せられない仕事で職場は成り立っている。俺は多分「常人なら2,3日で終わるような仕事を一月くらいかけてやっとできるくらいの無能」として雇われた。で、割と普通に終わらせてしまった。それだけだ。
しかしこれは俺が理想としていた座っているだけでお金が貰える仕事じゃないかとも思う。昨日はあまりにも何もしなさすぎてずっとウトウトしてしまったから、今日は気持ちを切り替えて半年後に必要になる書類を作っていた。細かいスケジュールなんてずれこんでいくもんだからこの書類もきっと大幅に改定することになる。言ってしまえば無駄骨だ。無駄なことをしていて時給が発生するなんて夢のようだ。座っているだけで給料がもらえる仕事は、そいつがいなくなったところで誰も困らない仕事だということがよく分かる。
ちょっと前、上司が俺のそばにやってきて、「ちょっと時間かかって面倒な作業があるんだけど、今大丈夫?」と言った。俺は喉まで出かかった「マジでなんもやることなくて暇なんで大丈夫ッス」をぐっとこらえて話を聞いた。「この画像ね、去年の資料なんだけど、こことここの支店は移転しちゃったから消したいの。でも、文字とかお店の絵が、道とか他のお店にかかるようにはみ出ちゃってるでしょ。これをうまいこと鉛筆の色を変えながら塗りつぶして欲しいんだ。ほら、これで400%とかに拡大表示すればできるでしょ。間違えたところは”戻る”で戻せるからさ。消しゴム使うと背景まで全部消えちゃうからね。半日くらいあればできるかな?」ペイントを指でなぞりながら上司は言う。余計な絵や文字をピクセル単位で潰していけ、ということらしかった。俺は図形を使って一気に潰したり、ブラシがはみ出た箇所を上から背景色でかぶせて塗ったりして半日の作業を10分で終わらせてしまった。
この話を俺は馬鹿にはできない。多分俺はキャリアとか職業とか学習とか、そういうものを同じ感覚でやっている。みんながペンキで一気に塗りつぶしたり、なんならフォトショとか使ってクリックひとつで終わらせる作業を、ピクセル一つ一つ塗りつぶしている最中だ。
今日日高校生だって金を稼ぐ手段を持っている。みんな苦労しながらペイントの使い方を習得している。多分俺も、中途半端にフォトショとかイラレとか使わずに、ペイントの細い鉛筆を握り直し、はみ出たペンキで画面を真っ赤にして「うわわ」とか言わなければいけないのだろう。